petit four的寝正月ギシリと身体に痛みが走って目が覚めた。
薄く開いた瞼の向こうに見えるのは、見慣れた自分の部屋の景色ではない。
あぁ、そうか。
思い出して納得する。
昨夜早くから始まって、日付が変わって数時間、ずっとシュラの宮で飲み続けていたんだっけ。
そして、そのまま寝入ってしまい、こうして朝に至る、と。
「よいしょ。」と、ちょっとオッサン臭い掛け声と共に起き上がる。
床には私と同じく痛む身体を丸めて寝入っている蟹の姿。
そして、ソファーの上には優雅に足を長〜く伸ばして寝る山羊と、その腕に抱かれてグッスリ眠る飛鳥がいた。
ほおぅ。
私達の前では手でさえ繋がないクセに、眠っている時は、こんなに仲良くイチャついているだなんて、流石はムッツリな山羊だな。
そのムッツリ具合を、少しは飛鳥の満足いく形で示してやれば良いものを、この男は。
あ、そうだ。
折角、デジカメもある事だし、年明け早々の仲良し添い寝記念に、一枚、撮っておいてやろう。
――カシャ。
ついでに、蟹の緩んだ不細工寝顔も撮っておいてやろうか。
誰も見たがらないだろうが。
――カシャ。
これで良しと。
さて、彼等が起きてしまう前に、片付けを済ましておこうか。
いつもいつも、料理やらお菓子やらお酒やらの用意で、シュラにも飛鳥にも迷惑を掛けてばかりいるからね。
たまには後片付けくらいはやって上げないと。
「ほら。起きろ、デスマスク。」
「ぁあ? 煩ぇなぁ……。」
「静かに起きろ。飛鳥が起きてしまう。」
「あー?」
私に叩き起こされたのが、余程ムカついたのか。
それとも、床で寝た後の寝起きの最悪さに、御機嫌が悪くなったのか。
デスマスクは極悪顔で身体を起こし、バリバリと髪を掻く。
「片付けをするぞ。音を立てずに静かにな。」
「……面倒臭ぇ。」
「そう言うな。いつも世話になっているのだから。」
渋々、立ち上がるデスマスクを促し、音を立てぬよう酒瓶を集める。
そして、ごちゃごちゃになったテーブルの上を片していった。
「……ん? あれ?」
「……どうした、飛鳥?」
「部屋、綺麗に片付いてる。」
洗い物を終えてリビングに戻ると、やっと目覚めたらしいシュラと飛鳥が、少しボンヤリした様子でソファーに座っていた。
後片付けはキミ達が寝ている間にしておいたと伝えれば、パッと嬉しそうに笑う飛鳥。
相変わらずの仏頂面で感謝しているのか、いないのか、全く分からないシュラ。
「ありがとう、ディーテ。そんなに気を遣ってくれなくて良かったのに。」
「キミには、いつも迷惑を掛けているからね。このくらいはするさ。」
「オイ、コラ。結局、片付けも洗いモンも、やったのは殆ど俺だろ。」
「デスさんも、ありがとう。」
失敬な、私だって片付けたさ。
瓶も運んだし、皿も運んだし、グラスも運んだぞ。
「オマエ、運んだだけじゃねぇか。」
「まあまあ。そんな二人に新年の贈り物。はい。」
何処に隠していたのか、飛鳥は取り出した長方形の箱を一つずつ、私とデスマスクに差し出した。
開けると同時に、ふわりと広がる甘い香り。
そして、その後から、鼻の奥を刺激する洋酒の香りが漂う。
「ブランデーをたっぷり使ったパウンドケーキを焼いたの。味わって食べてね。」
「飛鳥、俺の分はないのか?」
「キミはいつでも食べさせてもらってるだろう、シュラ。本当、ガメついな。」
飛鳥の作るスイーツは全部、自分のものだと言わんばかりに鼻を鳴らすシュラ。
その態度に少しばかり腹が立ったので、後でこっそり飛鳥にデータを渡そうかと思っていた先程の写真、寄り添う二人の寝姿画面を、これでもかと突き付けてやった。
ビシリと凍り付いたシュラの顔は、私を優越感に浸らせるに十分なものだった。
甘く大人な新年スイーツ
(は、早く、そのデータを消せ、アフロディーテ!)
(消す前に、私に送ってね、ディーテ。待ち受け画面にするんだ。)
(蟹の不細工な寝顔もあるけど、どうする?)
(テメェ! いつの間に俺の寝顔まで撮りやがった?!)
‐end‐
ドタバタな年明けw
この後、何故かデスさんのだらしない寝顔が聖域中に拡散するのでしたw。
2016.01.01