Bitter and Sweet potato



「あ〜……。」
「どうした、ミロ。さっきから溜息ばかりで。」


特にする事もなく暇を持て余していた秋の午後。
同じく休みだったミロの宮へ顔を出してみたのだが、奴は何やら浮かぬ顔をして、テーブルに山と乗ったスイーツをモクモクと食べ続けていた。
そして、その合間合間に、この溜息。


「……喉が詰まる。」
「だったら、無理して食わねば良いだろうに。」
「そういう訳にはいかない。」


決して手を止めてなるものかと、ミロは真剣な眼差しで、また一つ、新たな一個に手を伸ばす。
程良い焼き色と香ばしい焼き目、陽の光に艶々と輝く表面の光沢。
部屋に満ちる、ほっこり甘いサツマイモの香り。
視覚、嗅覚、そのどちらからも食欲を掻き立てるスイートポテトは、恐らく飛鳥の手作りだろう。


それにしても、何故、こんなに山のように……。
折角、二口程度で食べ切れるミニサイズで作られているというのに、こんなにも山盛りならば、巨大サイズを宛がわれているのと何ら変わらぬではないか。


「溜息まで吐きながら、無理して食べる必要があるのか?」
「ある。だから、一生懸命に食ってるんじゃないか。」
「……分かった。」


ミロにも、これを食べ切らねばならぬ、何らかの意地があるのだろう。
深く詮索するよりも、まずは喉を通すための飲み物が必要だ。
喉を詰まらせるスイートポテトと悪戦苦闘を繰り広げるミロのため、紅茶でも淹れてやろうとキッチンへ向かったのだが、ふと、コーヒーの方が良かっただろうかと思い至る。


「いや、紅茶でイイ。コーヒーはキツい。」
「そうか。少しぬるめに淹れておいた。ガブガブと飲んでも大丈夫だ。」
「サンキュ。助かる、カミュ。」


言うと同時に、カップの中の紅茶で、口の中のスイートポテトを流し込み始めるミロ。
私は自分用に淹れた紅茶を手に、スイートポテトの山から、その一つを引き寄せた。


さくり。
艶々と光る表面にスプーンを入れる。
多少の弾力はあれど柔らかで、しっとり感がある。
それを口に含めば、蕩けるようなクリーミーさも感じられる。
豊かなバターの風味と、滑らかなクリームのコク、そして、サツマイモの自然な甘みが口の中いっぱいに広がり、その優しい甘さに心が和むような味わい。
一つ二つ食べたところで、とても喉が詰まるような菓子ではない。
それがこうも喉詰まりを起こしているという事は、ミロは一体、どれだけ食べたというのか……。


「もう二十個は越えてるんじゃないか……、はあ……。」
「二十個?!」


げんなり顔のミロを見遣り、そして、未だ山のままのスイートポテトを見遣る。
残りは多分、これまで食べた分と同じくらいはあるだろう。
つまりは残り約二十個……。


「まさか、これを全部、食べ切るつもりか?」
「仕方ないだろ、それが条件なんだからさ。」
「条件?」
「あぁ、デートのな。」


誰とのデートかと問えば、何と飛鳥とだと言うから驚きだ。
以前からミロは、飛鳥が可愛い、飛鳥のような日本人の彼女が欲しいと言ってはいたが、まさか彼女本人とのデートを取り付けるために、無理をしてまでスイートポテトの馬鹿食いをしているなどとは思いも寄らなかった。
しかも、飛鳥はシュラの恋人。
これは立派な横恋慕だ、ミロらしくもない。





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