日溜りニャンコ



十日もの長い外地任務を終え、暫くの間は、ゆっくりと自宮で過ごしたいと思っていたのに。
早速とばかりにサガから御指名があり、長々と執務に付き合わされてしまった。
任務明けの翌日くらいは休養日にさせてくれても良いじゃないか、そう一人ごちながら、帰路に着く。
まだ夕焼けには遠いとしても、既に夕方に程近い時間。
溜息を吐きながら、プライベートルームの扉を開けた。


「……ただいま。」
「あぁ、おかえり、シュラ。」


リビングから聞こえてきたのは、カサカサと高く響く音。
多分、キャンディーか何かをセロファンで包んでいるのだろう、そんな音。
それに紛れて聞こえた声は、飛鳥のものではない。
聞き慣れた男の声だ。


「随分と遅かったじゃないか。」
「……何故、お前がココにいる?」


リビングのテーブルで、セロファンをガサガサと言わせていたのは、アフロディーテだった。
やはりというか、皿に山と盛られた一口大のチョコレートらしきものを、色とりどりのセロファンで包んでいる真っ最中。
クルクルと非常に手際良く、慣れた手付きで次々と包まれていくチョコレート。


「そりゃそうさ。キミと違って、休みの日は、いつも飛鳥の手伝いをしているからね。デスマスクのようにキッチンでの手伝いは苦手だから、主にラッピングの手伝いばかりだけど。まぁ、飛鳥の傍に居る時間が増えるなら、手伝いくらい幾らでもするさ。」
「俺だって、たまには手伝いもしている。……ん、美味いな、これ。チョコではなく、キャラメルか?」
「塩チョコキャラメルだそうだよ。ていうか、勝手に摘み食いをするなよ。」
「で、その飛鳥は?」


この美味い塩チョコキャラメルを作ったであろう肝心の飛鳥の姿が、何処にも見えない。
いつもなら、アフロディーテと共に、せっせとキャラメルを包んでいるだろう彼女。
音がしない事から、キッチンの中に籠もっている様子もない。
大事な仕事を人任せにして、何処かへ行ってしまうような性格ではない筈なのだが……。


「飛鳥なら、ほら、そこ。」
「ん……?」


アフロディーテが指で示す先を見る。
リビングの真ん中に陣取るソファーの向こう側を覗き込めば、窓辺の日溜まりの中で、猫のように丸まって眠る飛鳥の姿があった。
何故、こんなとろこで昼寝など?
近付いて、直ぐ横にしゃがみ込んでも、俺の気配に気付く事なく、スースーと眠り込んでいる。


「コラコラ。ばい菌だらけの手で、飛鳥に触るなよ。」
「……ばい菌。」


無意識に飛鳥へと伸びた指先で、そのふっくらした頬を突っ付こうとした瞬間に、非難の色を濃く纏うアフロディーテの声が響き、俺の手はピタリと止まる。
止められた事に対して、恨みの混じる視線を送るも、ヤツは涼しい顔で眉を上げるだけ。
包みを続ける手を、止める事もない。
言葉の合間合間に、ガサガサと響くセロファンの音が挟まってくる。


「キミ、まだ手を洗っていないだろう? 帰宅したら、まずはウガイと、手洗い。食べ物を扱う飛鳥に、手も洗わないで触れようなど、言語道断だ。」
「悪かったな。」


少々腹立たしかったが、アフロディーテの言う事は正論。
俺は渋々ながらも立ち上がり、洗面所へと向かった。
そして、念入りにウガイをし、綺麗に手を洗った。


「しかし、珍しいな。飛鳥が昼寝など。」
「原因は何処の誰のせいだと思っているんだい? 自覚がないのか、キミは?」
「俺のせいだと言うのか?」


リビングに戻ると、俺の居ない間に寝返りを打ったのか、飛鳥は先程とは逆向きになって丸まっていた。
クッションを腕に抱き、時折、小さく寝言まで零している。
本物の子猫のようで、実に愛らしい。
その姿を眺める俺の口元も、自然と緩む。





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