――ポリポリ、パリポリ……。


「……美味い。」
「あぁ、これは美味しいね。」
「でしょう! お祖父ちゃん直伝のおかきなんだから。」


先程の乾燥餅は、揚げた事により、氷くらいの大きさにまで膨らんで、さっくりふんわりとした菓子に変わっていた。
振り掛けられた塩の程良い塩梅。
冷めても美味しいらしいが、揚げ立ての美味しさは、また格別だそうだ。


「だが、お祖父さんのには遠く及ばんな。」
「分かってますよぉ。お祖父ちゃんが長年培ってきた職人業には、到底、敵わない事くらい。だから、私は味付けで勝負してるの。」


塩を振っただけのおかきがプレーンとするなら、その他に三種類のおかきが用意されていた。
塩に青海苔を混ぜたもの、同じく塩に柚子の粉を混ぜたもの。
そして、もう一つは……。


「塩にバジルとトマトの粉を混ぜて、味付けしてみたの。その名も、おかきイタリアン。どうかな?」
「ゲテモノかと思ったが、これはこれで意外といける。」
「あぁ、トマトの酸味と程良い塩分が丁度良いよ。これならワインのつまみにもなりそうだね。」
「良かったぁ。今度、帰省したら、お祖父ちゃんにも教えて上げよう。」


どうにも、おかきに伸びる手が止まらなくなり、ポリポリと食べ続けてしまう。
飛鳥が淹れてくれた緑茶を啜り、まったりとしたおやつタイム。
シュラはおかきに夢中のようで、先程から無言で頬張り続けている。


「実家は町のお菓子屋さんなの。近所の人だけが買いにくるようなね。お団子とか、おはぎとか、豆餅とかが、いつも並んでいて、季節によっては桜餅や柏餅もあって。お祖父ちゃんは和菓子職人で、お店の和菓子を一人で全部作ってるのよ。」
「現役の職人さんなのかい?」
「うん。おかきは子供達が喜ぶから、いつも欠かさず置いているわ。」


飛鳥の両親は早くに他界している。
祖父母の元で育った彼女の原点、パティシエを目指した初めの一歩が、祖父の作る和菓子だったという訳か。
洋菓子が専門の飛鳥だが、和菓子作りにも精通しているのは、幼き頃よりの積み重ねがあっての事だろう。


「シュラも、飛鳥のお祖父さんのおかきを食べた事があるのかい?」
「無論だ。飛鳥がココに引っ越してくる際の、手伝いに行った時にな。」
「シュラは律儀だから。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに挨拶するって聞かなくて。で、お茶請けに出されたお祖父ちゃんのおかきに、すっかり心奪われてしまったのね。」
「正直、飛鳥の菓子以外に虜になる事などないと思ったが、あれは驚きだった。こんなに美味いものがあるのかと……。」
「シュラがあまりに『美味い、美味い。』って食べ続けるものだから、お祖父ちゃんもスッカリ気を良くしちゃって。最初はギリシャ行きに反対だったのに、気が付いたら『孫を宜しく頼みます。』なんて、頭を下げてるんだもの、驚きよ。」


何と言うか……、飛鳥もお祖父さんも、似た者同士なのだな。
菓子好きな人に悪いヤツはいないという、独特な考えを持っている。
まぁ、和菓子も洋菓子も関係なく、自分の作った菓子を「美味い。」と底なしに頬張る人間を見て、喜ばない職人はいないだろう。
シュラは、飛鳥一家の絶品菓子の虜に。
飛鳥一家は、シュラの見事な食べっぷりの虜になったという訳だ。


朴念仁のクセに、飛鳥とその家族をどうやって落としたのかと思えば、まさに朴念仁らしいアピールだったのか。
まぁ、本人は全くそのつもりはなかったんだろうけど。
目付きも悪く、強面のマフィアみたいな男が、黙々と菓子を食べ続けているとあっては、その姿に惹かれない菓子職人はいないのかもしれない。
私もシュラくらいに甘党だったのなら、飛鳥の気を惹けたのかもしれないな。



ポリポリと味わう彼女の原点



(おかきをチョココーティングするのは、どうだろうか? 甘さと塩味が絡んで美味いと思うのだが。)
(いや、それはどうかと思うよ。)
(甘党過ぎるだろ、キミ……。)



‐end‐





おはぎの話を書こうと思いながら、何故か書き上がったのは、おかきの話とかいう(苦笑)
揚げ立てのおかきは本当に美味しいですよね。
昔、祖母が乾燥餅を割っては、揚げてくれたのを思い出します。
てか、チョコ掛けポテチがあるなら、チョコ掛けおかきもありそうな気が……。

2015.03.24



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