俺がいない間に、飛鳥がそのようなものを試作していたとは。
しかも、それを俺ではなく、コイツ等と最初の試飲をするとは。


「お、不機嫌になりやがった。」
「ていうか、怒ってるでしょ。ホント、無表情のクセに感情丸出しで分かり易いよねぇ、シュラ。」
「煩い。」
「飛鳥に係わる事は、なーンでも自分が一番じゃなきゃ気が済まねぇンだからなぁ。困った山羊サンだぜ。」


当然だ。
飛鳥が作るものを、俺が一番に味わわなくて、どうする。
俺は飛鳥の彼氏で恋人で、まぁ、夫みたいなものだからな。
飛鳥も、飛鳥の作る菓子も、その全てを俺が独占して何が悪い。


「まぁまぁ。ほら、これでも食べてさ。落ち着こう。」
「オラ。コレも飲め。美味いぞ。」


俺の怒りを宥めるように、アフロディーテが差し出してきたのは、飛鳥が作ったのであろうカリカリのラスク。
そして、反対側からは、フルブラとやらが入ったグラスを、デスマスクが差し出してくる。
右手にグラス、左手にラスク、そして、胴体には飛鳥が抱き付いたままの状態で、まずはグラスを傾けた。


「む、これは……。」
「美味いだろ。林檎のフルブラに、林檎ジュースとラムを加えて、カクテルっぽくしてみたンだぜ。」
「フルーティーで口当たりが良いからねぇ。特に飛鳥は、そっちのバナナのフルブラを、飲むヨーグルトとレモンリキュールで割って飲むのが気に入ったみたいでさ。」
「結構アルコールキツいから止めろって言ってンのに、バッカバッカ飲みやがってよ。すっかり出来上がって、このザマだ。」


苦笑するアフロディーテと、髪を掻き毟るデスマスクの視線を追って、自分も視線を落とせば、さっきまでシッカリと身体にしがみ付いていた飛鳥は、いつの間にやら、俺の膝を枕にして、瞼を閉じていた。
小さな寝息まで立てて、すっかり夢の世界の住人だ。


「良いよね。可愛い恋人がいる人はさ。」
「可愛いかどうかは分からねぇが、オマエの好きなモン、たんまり食わせてもらってンだろ。タマには手ぇくらい繋いでやれよ。」
「ホントだよ。これ以上ない幸せ者のクセに、キミは飛鳥に冷た過ぎだ。もっと恋人らしく振る舞って上げなきゃ。」


耳が痛い。
確かに、俺は飛鳥に甘え過ぎているのだろう。
彼女が随分と我慢している事も知っている。
しかし、コイツ等だって酔っ払いだ。
話は半分に聞いておかねば、どんな要求に発展するか分からない。


「アテネ市街に出る時には、当然、手は繋ぐだろう。」
「何だったら肩を抱くくらいじゃねぇとなぁ。あ、腰に腕を回すのも悪くねぇ。」
「しかし、それだけでは生温い。皆の前でキスくらいは出来ないとね。」
「コイツは俺の女だって、いつもの決まり文句を吐きながら、ギューっと抱き締めるってのも捨て難いな。」


人事だと思って、好き放題に言ってくれる。
飛鳥が膝の上で寝ている手前、殴り掛かれないのを良い事に、勝手な要求がドンドンエスカレートしていくのが、聞いていて腹立たしい。


「貴様等っ……。」
「ほら、もっと飲んで。折角、飛鳥が用意したフルブラだ、しっかり味わいなよ。」
「明日は休みなンだろ? 今夜はグーッと飲んで、ガッツリ酔っ払って、飛鳥と宜しくヤって、明日はダラダラ過ごせばイイんだよ。」


何だか余計な妄想が一つ混じっている気もするが……。
飛鳥が幸せそうにムニャムニャと寝言を言いながら、俺の膝で眠る顔を見下ろしていると、怒っているのも馬鹿らしくなってきた。
片手に甘く心地良いカクテル、もう一方に酒の味を引き立てるシンプルな味付けのサクサクラスク。
それを自ら台無しにする必要はないだろう。
美酒のせいもあるのか、珍しくそんな事を思った。



まろやかに心地良く、今宵も更けていく



(しかし、こんなにグッスリ寝られては、ヤる事もヤれんな。)
(結局、ヤる気満々じゃねぇか、オマエ。)
(う、うぅん、シュラ……。そんなに食べたら、糖尿病に……。)
(フッ、聞いたかい? 飛鳥がキミの夢を見て、うなされてるよ。)



‐end‐





バナナのフルブラでパウンドケーキ作りたいなぁと思いながら書きました。
フルブラに興味はあれど、下戸なので中々手を出し難いとか言います。
蟹さまが思いの外、気に入って、フルブラ使った料理レシピを多数、考案しそうねw

2015.02.01



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