微酔いフルブラ



予定外に二日も掛かってしまった任務を終え、聖域へと帰還した俺は双魚宮へ向かって階段を上っていた。
疲れ果てていたにも係わらず、自宮を通り抜けて、真っ直ぐにそこへと向かったのには訳がある。
寂しそうに沈んだ様子だった飛鳥を、夕食に誘ったのだと、アフロディーテから連絡があったからだ。
ベッドに倒れ込んで寝てしまう前に、まずは飛鳥を連れ戻さなければならない。
じゃないと危険がいっぱいだ。
アフロディーテが飛鳥に懸想しているのは周知の事実なのだから。


「あぁ、シュラ。ご苦労さん。疲れただろう。」
「よぉ、イイとこに帰ってきたな。オマエも一杯やってけよ。」


双魚宮に足を踏み入れると、アフロディーテのみならず、デスマスクまでもが居座っていて、いつもの如くに大量の酒瓶を床に転がしていた。
ニヤニヤと笑う様子から、既に結構な量のアルコールを摂取しているのだろう。
アフロディーテの顔も仄かに赤い。
このままココに居ては、朝までコイツ等の暴飲に付き合わされそうだ。
ならば、飛鳥を連れて、とっとと帰るに越した事はない。
そう思った瞬間だった。


「あ、シュラだぁ。わーい、お帰りー。」
「っ?! 飛鳥っ?!」


そういえば姿が見えないと思っていた飛鳥が、唐突に背後のドアから現れ、そのまま背中に抱き付いてきたのだから、驚くのも当然だった。
しかも、その体勢のまま硬直した俺を、グラスを傾けながらニヤニヤ眺める悪友二人。
そのとっておきに楽しそうな視線、苛付く程のシタリ顔。


「は、離れろ、飛鳥っ!」
「いや、ですぅ。」
「お前、酔ってるのか?」
「酔ってますよ。えぇ、酔ってますよぉ。」


大きな溜息を盛大に吐いた後、何か言いたげに俺達の姿を眺めている二人に向かって、鋭い視線を投げ掛けた。
だが、今更、俺の威嚇に怯むような奴等ではない。
アフロディーテは半笑いで肩を竦め、デスマスクは「ヒッヒッ。」と声を上げて笑う始末。


「なら、せめて横に移動してくれ。俺も座りたい。疲れてるんだ。」
「ら、じゃー。」


まるでコアラよろしく俺の腰にしがみ付く飛鳥は、ズリズリと背中から右脇腹の方へとポジションを変えた。
やっと見られた彼女の表情は、仄かに赤らんだ頬に、クッキリ弧を描いた瞳、口元はニコニコとしていて、実に楽しそうだ。


「誰だ? こんなになるまで飛鳥に飲ませたのは?」
「誰、って言われても、ねぇ?」
「犯人が誰かっつーと、まぁ、コイツ本人だろうなぁ。」
「……本人?」


言われて横を見遣る。
俺が座ると同時に、一緒にソファーに座り込んだ飛鳥は、今は猫のように俺の胸に擦り寄っていた。
ゴロニャンという鳴き声まで聞こえてきそうな状態だ。


「見て、コレコレ。飛鳥が持ってきたんだよ。」
「おう。コレが予想外に美味くてなぁ。ま、どちらかっつーと女向けだから、飲み始めたら止まらンくなったンだろ。」


アフロディーテがポンポンと叩いて見せたのは、テーブルの上にあった大きな瓶。
それと同じ瓶が、あと二つある。
それぞれに何かのフルーツが入っていて、琥珀色した液体に浸かっているのだが……。


「……それは?」
「フルブラだって。飛鳥が作ってくれたんだけどね。」
「フルブラ? 何なんだ?」
「フルーツをブランデーに漬けたモンだってよ。飲んでも良し、料理にも良し。最近、流行りだってンで、作ってみたらしいぜ。」
「紅茶に落として、フレーバーブランデーティーにしても美味しいらしいけど、ほら、今は夜だしさ。炭酸水や他のアルコールで割ってみたら、ねぇ。」
「そりゃあ、美味くて飲み易いカクテルになったってンで、コイツ、一人で勝手にグビグビいきやがってよぉ。一応、止めたンだぜ、俺等も。」


そう言って、肩を竦めたアフロディーテと、片眉を上げたデスマスク。
どうやら嘘は吐いていないようだが、気に入らないのはそこじゃない。





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