朝食が終わった後も、飛鳥はキッチンに立て籠もっていた。
正直、折角、誕生日に与えられた丸一日の休み。
飛鳥と二人でノンビリ過ごしたいと思っていたのだが、彼女にその気は全くないらしい。
俺の誕生日だからと張り切って、俺の好きなアレもコレも作ろうと手を伸ばし、結果、隣合せに座る時間すら与えられないとは。
これでは、誕生日を満喫出来ているとは、とても言い難い……。


「お待たせ〜。あれ?」
「……何だ?」
「シュラ、不機嫌な顔してる。御機嫌斜め?」
「不機嫌な理由なら、自分の胸に手を当てて考えれば、直ぐに分かるだろう。」


眉をハの字に下げて、俺の顔を覗き込んだ飛鳥は、手に持っていた大きな皿をテーブルに置くと、言われた通りに胸に手を当てて、「う〜ん。」と唸りながら暫し考え込んでいた。
これで俺の気持ちを察せないようなら、このままソファーに組み伏せ、何だかんだと俺の思い通りにしてしまうのも悪くない。
そんな邪(ヨコシマ)な考えに到達したのと、ほぼ同時。
飛鳥がポンと一つ、手を叩いたかと思うと、テーブルの上に乗った皿からクッキーを一枚摘まんで、俺の口に強引に咥えさせ、自分は何処かへと走って行ってしまった。


一体、何なんだ……。
いや、しかし、このクッキーは相変わらず美味いな。
フワリと広がる甘みと、それを邪魔しない生姜の、ピリリと微かなスパイシーさ。
俺の一番のお気に入りが、飛鳥の作る、このジンジャークッキーだ。


そうこうしている間に、飛鳥は運んできた巨大なガラスポットとグラスを、ドンッとテーブルに勢い良く乗せて。
そして、また引き返しては、今度は何かが盛られた小さな籠を三つ程、抱えて戻ってきた。


「……ポップコーン?」
「そう。この前、アテネの街に出た時に、屋台で売っているのを見たの。美味しそうだったし、面白そうだなって。」


飛鳥が摘まんだポップコーンには、チョコレートコーティングがされていた。
なる程、先程、チョコレートを溶かしていたのは、チュロスのためだけではなく、このポップコーンがメインだったという訳か。
それにしても、いつの間にポップコーンなど用意していたのか……。


「私だって、折角のシュラの誕生日、一緒にノンビリ過ごしたいなって思っていたのよ。でも、シュラの好きなお菓子もいっぱい作って上げたかったし……。だから、早起きして、一生懸命にお菓子作って、午前中に全部、終わらせて、午後は二人でまったりしようかな、と。映画でも観てね。」
「……映画?」
「これ! ディーテが貸してくれたの。とても良い恋愛映画なんだって!」


恋愛映画か……。
その手の映画には、あまり興味はないが、飛鳥とゆっくり過ごすには、これ以上ないアイテムだと思う。
ポップコーンを用意したのも、映画を観ながら摘まむ定番だからといったところか。
まぁ、悪くはない休日の過ごし方だ。
映画を観ながら、美味いポップコーンを摘み、開いた手で飛鳥の肩を抱く。
映画の雰囲気に流されて、そこから……、なんて事もあるかもしれない。


「これは塩キャラメル味ね。で、こっちはメープル。あと、ガラスポットの中身は、特製のジンジャーエールなの。私の手作りだけど、作り方は秘密。今日のために、半年前から生姜とスパイスを浸けて、シロップを作ったのよ。」
「ん……、これは美味いな。」


シュワシュワと弾ける炭酸に溶けた、程良い辛みと、仄かな甘さ。
鼻から抜けるジンジャーの香りが爽やかで、それでいて、口内に残るのは蜂蜜の後味。
そして、塩分の効いたキャラメル味のポップコーンは、無意識に手が伸びて、それを延々と止められなくなってしまいそうだ。


「さ、映画、映画。鑑賞会をしましょう。」
「フッ。まぁ、良いか。」
「……良いって、何が?」
「こんな誕生日も悪くないという事だ。」


数種類のポップコーンと爽やかなジンジャーエール、左腕には愛しい恋人を抱いて、ノンビリまったり映画鑑賞。
本当は大人な展開の誕生日を希望していたのだが、それはまた来年の楽しみにとっておこうか。



ほんわか彼女のくれた、ほんわか誕生日



(……あれ? シュラ、泣いてるの?)
(お、思った以上に感動する話だった。つい、感情移入してしまってだな……。)
(私は期待外れだったなぁ。やっぱりカンフー映画の方が良かった。ふわわぁ。)
(っ?!)



‐end‐





うっかり恋愛映画にハマる山羊さまと、飽きる夢主さん(苦笑)
途中から先の展開が気になって、ポップコーン摘まむどころではなくなる山羊さま。
その一方で、夢主さんは途中で飽きて、次に作るスイーツの事を考えていたりしますw

そんな訳で、山羊さま、誕生日おめでとう御座いました!
2015.01.12



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