「……にしても、その格好。何だよ、それ?」
「あ、やっぱり気になる?」
「そりゃあ、なぁ、カミュ。」
「あぁ。」


私達が気になったのは、シュラと飛鳥の服装だ。
この聖域では見た事もない格好で、露出は少ないのだが、不思議と涼しげに見える。


「……それは、浴衣か?」
「カミュ、お前。浴衣を知ってるのか?」
「あぁ。先日、氷河が写真を送ってくれてな。」


私は財布に入れていた一枚の写真を取り出した。
皆で花火大会を見に行ったのだと、その時に撮った写真を、氷河が送ってくれたのだ。
その写真の中で、氷河達が仲良く身に着けていたのが浴衣だった。


「星矢、着崩し過ぎだろ。肌蹴てんじゃん。」
「紫龍が一番、似合っているな。」
「瞬くんも、萩模様の浴衣が良く合ってるね。可愛らしい、なんて言ったら、怒られるかな。」
「氷河は流石に違和感あるよなぁ。てか、カミュ。この写真、財布の中に入れてるって、お前……。」


子煩悩のパパかよ、そうミロに突っ込まれたが、何がいけないのだろうか?
素直に首を傾げれば、呆れの溜息を吐く親友と、その肩を同情たっぷりに叩くシュラ。
飛鳥はクスクスと笑っている。


「しかし、貴方はスペイン人だというのに、浴衣が良く似合っているな。」
「あ、カミュさんも、そう思う? シュラは浴衣も着物も凄く良く似合って、まさに『旦那様』って感じでしょ。」
「人前で、その呼び名は止めろ、飛鳥……。」


シュラは紺の地色、飛鳥は黒の地色に、一面、星を散らしたような模様の生地。
それに白い帯を締めた、お揃いの浴衣姿で並ぶ二人は、一見すればネイティブな日本人カップルに見えなくもない。
あまりに自然過ぎて、違和感が全くないのが不思議だ。


「折角、仕立てたんだから、一回しか着ないなんて勿体ないもの。シュラも気に入ってくれたみたいだから、こうして浴衣姿で花火と食事を楽しんでいるのよ。」
「ふ〜ん、良いなぁ。俺も一度くらいは、着てみたいな。」
「ミロが浴衣? あ、そういえば……。」
「どうした、飛鳥?」


ポンと手と手を合わせて、何かを思い出したような飛鳥の様子。
何事かと顔を見合わすミロと私だったが、シュラは何処吹く風といった顔で淡々とビールを煽っている。
彼女のこうした突然の思い付きは、いつもの事なのだろうか。
ゼリーを摘み、ビールを煽り、飛鳥の事は眼中にない。


「シュラの普段着にと思って作った甚平があるの。あれなら二人でも着られるんじゃない? 浴衣みたいに着苦しくもないし。」
「ジンベイ? 何だそりゃ?」
「それも和装なのか?」
「一応ね。筒型の半袖に半ズボンで、帯もしないから楽だよ。」


グイグイと腕を引っ張る飛鳥に導かれ、磨羯宮のリビングへと向かう。
彼女が奥の部屋から出してきた服は、和服と洋服の中間のような形で、和装に慣れない私達でも、確かに着易そうだった。
飛鳥は暫く悩んだ結果、ミロに若草色の甚平を、私には紺色の甚平を手渡す。


「この紐を内側の紐に結んで、こっちの紐は右脇で外側の紐に結んでね。」
「意外と簡単に着られるんだなぁ。」
「浴衣とは違うから。着崩れる事もないし、暴れても大丈夫よ。」
「いや、暴れる事はないと思うぞ、子供じゃないのだから。」


飛鳥は甚平の着用方法を一通り説明し、履物は一足しかないからと、代わりにビーチサンダルを用意して、外へと戻っていった。
その際、「下着は脱がずに、履いたままで甚平を着てね。」などと言い残していったが、何故、そんな当たり前の事、念を押す必要があるのだろうか。


「どうせシュラがノーパンで浴衣を着ようとしたんだろ。アイツ、ムッツリだからな、それくらいの事はしかねん。」
「あの格好で下着を履かないなど、落ち着かないだろう。」
「知らん。シュラに聞けよ。」


下らない会話を続けながら、着替えを進める。
ウエストは紐で縛るようになっており、シュラよりは細身の私でも、問題なく着る事が出来た。





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