十二宮ビアガーデン



「暑ぃなぁ……。」
「そうだな……。」


予想外に執務が長引き、外に出ると、既に満天の星空が広がっていた。
身体が空腹を訴えていたが、こうも暑いと、これから自宮に戻って料理をする気も起きない。
そんな理由で、共に執務を終えたミロと二人、街へ食事に行こうと、あれやこれや話をしながら十二宮を降りている途中の事。
何処からか漂ってくる火薬のような臭いに、ミロと顔を見合わせる。


「……こんなトコロで、何をやっているのだ、お前達。」
「あ、ミロ。カミュさん。お疲れさま〜。」


磨羯宮を抜けた直ぐ横。
十二宮の階段を見下ろす場所に、ビーチテーブルとビーチチェアを広げて陣取る、この宮の宮主とその恋人・飛鳥の姿があった。
テーブルの上にビッシリと並べられているのは、手軽に摘めるピンチョスと、飛鳥が作ったのであろう宝石のようにキラキラ輝く一口ゼリー。
ビーチチェアにドッシリと腰を掛けた山羊座の男は、ビール片手に、その色鮮やかなゼリーを黙々と摘んでいる。
その少し手前では、飛鳥がニコニコと笑いながら手持ち花火を楽しんでいた。
成る程、あの微かな火薬の臭いは、ココで花火をしていたせいか……。


「お、花火してるのか? 楽しそうだなぁ。」
「ミロも一緒に、どう? カミュさんも。」
「いや、私達はこれから食事に行くところで……。」
「食べ物だったら、このピンチョス、どうぞ好きに摘んで。」
「奥にパエリアもあるぞ。ちょっと待ってろ。」


言うが早いか席を立ち、宮の中へと姿を消したシュラが、片手にパエリア、片手に何か別の料理の皿を持って戻ってくる。
あんなに腰が重そうな様子で飲んでいながら、意外にフットワークは軽い。
寧ろ、この宮では、言えば何でも出てきそうな勢いだ。


「折角だし、お言葉に甘えちゃおうぜ、カミュ。ピンチョスもパエリアも凄い美味そう。」
「貴女が作ったのか、飛鳥?」
「いえいえ、ピンチョスもパエリアも作ったのはシュラですよ。私はスイーツ担当だから。」


そう言って、一口ゼリーを刺したピックを私に差し出す飛鳥。
その横では、ミロが早々と料理に手を伸ばし、黙々とピンチョスの一つ、サーモンと茹で卵の一口パンを頬張っている。
私は呆れの溜息と共にピックを受け取り、ゼリーを口の中に放り込んだ。
甘くて仄かに苦いグレープフルーツの爽やかな酸味が、口の中いっぱいに広がる。


「この小海老とアボカドのピンチョスも美味しいよ、ミロ。」
「俺、その生ハムとアンチョビのヤツが、一番美味そうだなって思ってたんだけど。」
「うん、それもお勧め。全部、お勧め。どれを食べても美味しいの。」
「俺が作ったんだ、当然だろう。」


相変わらずビーチチェアに陣取るシュラが、フンと鼻を鳴らして踏ん反り返る。
生ハムやチーズ、サーモン、アンチョビ、ウズラの茹で卵に目玉焼き、海老やカニカマ、ピーマン、アボカド、トマトなど。
鮮やかでバラエティーに富んだ食材達が、小さなパンの上にギュッと乗せられたピンチョスは、見た目も豪華で食欲もそそられる。
それにアルコールも進みそうだ。


こうして外で夜風に当たりながらというのも、ビールの冷たさと相成って心地良い。
そして、十二宮を見下ろしての食事というのも、何とも気分が良いものだ。
パチパチと煙の上がる花火だけが、やや邪魔に感じられるのだが、飛鳥が楽しそうにはしゃいでいる姿を見れば、そんな不満もどうでも良くなってくる。





- 1/3 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -