「グリーンティーですのね。」
「はい。本当はお抹茶を点てるのが良いのでしょうけれど、シュラにはハードルが高いかと思って。今日はとても暖かだし、甘くて冷たいグリーンティーだったら、シュラでも抵抗もなくいけるかな、と。」
「グリーンティー、か……。」


遠慮なくグラスを取り、喉に流し込む。
まず舌の上に広がる苦み。
それから、それ以上の甘みが口の中に優しく溶け込んでくる。
何というか、深い味わいだ。
そして、コロンとした愛らしいフォルムの桜餅。
アテナは上品に少しずつ口に運んでいるが、俺は丸ごと手で掴んで、それに齧り付いた。


「……美味い。」
「ホント? 良かったー。実は作り方も簡単だし、全然、手が掛かってないから、シュラの評価は低いんじゃないかなって、心配だったの。」
「そうは言っても、飛鳥さん。この餡の絶妙な甘さ、深み。これだけの味を出すのは、簡単な事ではないでしょう? シンプルなもの程、難しいと言うではありませんか。」


アテナの向かい側、俺も深く頷いた。
和菓子には疎い自分でも、この味を作り出す難しさならば容易に推測出来る。
一つ目を食べ終え、二つ目を手に。
幾つ食べても、食べ飽きない、この味。


「美味い……、美味いな。」
「ふふっ。シュラは桜餅が、とってもお気に入りみたいですよ。」
「彼、甘いものに目がないから。」
「そうではないでしょう。飛鳥さんの作った桜餅だからこそ、シュラが虜になったのではなくて?」


虜……、という言い方はどうかと思うが、この桜餅が大好物となったのは間違いない。
程良い甘さと、しっとりと舌触りの良いこし餡。
堅過ぎず、柔過ぎず、粘り過ぎず、だが弾力のある絶妙な触感の餅皮。
そして、甘さの邪魔をしない、見事な塩梅の桜の葉の塩加減。
和菓子とは、こんなにも美味いものだったかと、改めて思う。


「私はそろそろお暇しますね。お二人でノンビリと、お花見を楽しんでください。」
「アテナ、そのようにお気を遣っていただかずとも……。」
「良いのです。仲の良い恋人達の邪魔をするなど、野暮な事ですから。」
「ありがとう、沙織さん。残りの桜餅はお重に詰めて、お部屋に運ばせておきましたから、良かったら……。」
「では、私はそれを持って、星矢達とお花見にでも行くとしましょう。」


白いワンピースをフワリと翻し、アテナは優雅に中庭から立ち去ってしまった。
残された俺は、正直、どうして良いか分からずにいた。
隣にいるのは、いつもの飛鳥であって、いつもの飛鳥ではない。
髪を結い上げ、ピシッと着物を着た姿は大人びて見え、そして、不思議と妖艶にすら感じた。
洋服姿よりも、ずっと露出が少ないのに、この色気は何だというのか。
素直にそれを伝えると、飛鳥はクスクスと控えめな笑いを零した。


「着物って、着ると、こう背筋がビシッと伸びるって言うか、自然と良い姿勢を保とうって気になるのよね。そのせいもあって、指先にまで神経が行き届くみたいな。普段は何気なくやっている仕草でも、丁寧にとか、抑え気味にとか。それが雰囲気にも出るんじゃないのかな。」
「俺は余りそういう気にはならんが。少し居心地が悪いくらいでな。」
「男の人はね。普段よりも返って、ゆったりどっしりとした感じになるかも。」


言いながら飛鳥は、空になった俺のグラスにグリーンティーを注ぎ足す。
その所作が、やはり艶めかしかった。
何も色気のある行動などしていない筈なのに、その手の動き、小さく揺れる頭の動きにまで見惚れてしまう。


「飛鳥は食べないのか、桜餅?」
「散々、味見したもの。それに私は花よりも、桜餅よりも、もっと望んでいたものが目の前にある事だし。ね、旦那様?」
「旦那様っ?!」
「だって、そんなに素敵な和服姿を見せられたら、旦那様と呼ぶしかないでしょう?」
「飛鳥――、っ?!」


ニコリ、笑ったかと思えば、次の瞬間。
首に腕を回して抱き付いてきた飛鳥に、熱烈なキスをお見舞いされていた。
見開いたままの視界に、彼女の前髪に張り付いた幾つもの桜の花弁が、淡いピンク色に霞んで映っていた。



花よりも旦那様!



(これ、脱がすの大変そうだな。いっそ、このままでするか……。)
(やだ、シュラ! そんな事、考えてたの?!)



‐end‐





山羊さまに和装をさせたかっただけとか言います^^;
あと、お花見しながら、黙々と桜餅を貪り食べる山羊さまに萌え発生w
この後、色々と我慢の限界を迎えた山羊さまは、お部屋に帰るなり、夢主さんを襲いますw
脱がすの面倒だから、そのまま着物を捲り上げて立ちバック……、というところまで、妄想内では進みました。
流石に、その場面は割愛しましたがw

2014.03.30



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