「ココじゃ駄目なの。それに、シュラじゃなきゃ駄目なんだってば。」
「なンだって、そンなにシュラがイイんだよ。俺だってそこそこ、いや、かなりイイ男だろが。」
「そう言う問題じゃないの。」


どうやら、次第に飛鳥の機嫌も悪くなってきているようだ。
声の調子は変わらないが、口元が尖ってきている。
本人に意識はないだろうが、何とも愛らしいアヒル口。
デスマスクの奴さえココにいなければ、肩を引き寄せてキスの一つでもするところだが。
ったく、何でコイツは、俺と飛鳥の穏やかなティータイムの邪魔をするのか……。


「飛鳥、どうして俺じゃなきゃ駄目なんだ?」
「それは……。」


目が泳いでいる。
何か企んでいるのか?
それとも、俺に何かさせる気か?
いずれにしても、飛鳥の企み程度なら可愛いもの、さして苦にもならないが。


「そンな冷淡な男なンて放っておいて、俺と日本を満喫しようぜ、飛鳥。たんまりイイ思いさせてやるから――、どわっ! 何しやがる、テメェ!」
「貴様、俺の目の前で飛鳥を口説くなど、死にゆく覚悟が出来ての事だろうな?」
「ちょっとしたジョークだろ、ジョーク! 本気じゃねぇって!」
「フンッ。冗談で人の女を口説くなど、随分と質が悪いな、デスマスクよ。」


ゆらり、立ち昇る怒りに構えた手刀は、流石に飛鳥が見ている手前、本気で振り下ろせない。
流血沙汰など、彼女の目に触れさせる訳にはいかんからな。
その代わりと言っては何だが、これまたデスマスクが勝手に取り分けて食べていた飛鳥のタルトを、無言で没収してやった。
「あぁ!」と残念そうな声を上げるデスマスク。
フン、そんな顔をして俺を見ても、もう遅いわ。


「仕方ない。デスマスクと今回の護衛の任務を代わってもらう。それでどうだ、飛鳥?」
「本当に?! ……あ、でも、良いの?」


パッと嬉しそうに破顔した後、直ぐに、オズオズと俺の顔を覗き込んでくる飛鳥。
我が儘を押し通した自覚があるからだろう、見上げてくる瞳に申し訳なさが現れている。
本当に……、何故、今、この場にデスマスクがいる?
コイツさえいなければ、このまま飛鳥を押し倒して、熱い昼の情事に身を任せ、嫌という程に互いの想いを再確認するというのに。


「俺は構わん。デスマスクも良いな?」
「おーおー、好きなだけ代わってやるよ。日本で精々イチャ付き合ってくる事だな、このバカップル。」


言うと、俺に没収されたケーキ皿を奪い返し、残りのタルトをガツガツと食べ始めるデスマスク。
唖然と見守る俺と飛鳥の視線など、微塵も気にせずに、奴は二切れ目を勝手に取り分けると、それも勢い良く掻き込んでみせた。


「あの……、それじゃあ宜しくお願いします、シュラ。」
「あぁ。」


何を企んでいるのかは知らんが、菓子作りが最優先の飛鳥の事。
とんでもない事態に陥ったりはしないだろう。
何より、飛鳥の作る桜餅。
正直、それが非常に楽しみだったりするのだ。


「俺も食いてぇなぁ、桜餅っての。美味いンだろ?」
「飛鳥の作る菓子だ、美味いに決まっている。」
「そんなに期待しないでよ。ガッカリされたら悲しいもの。」
「お前の作る菓子が美味くないなど、絶対に有り得ない。ガッカリなどしない。」
「バカップルつーか、バ彼氏だな、コイツは……。」


タルトを掬ったフォークを休みなく口へと運びながら、デスマスクは呆れた視線で俺を見ている。
その手からケーキ皿を、もう一度、没収したのは言うまでもない。





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