petit four的夜明けの雨



目覚めたのは明け方の少し前。
薄らと明るくなり始めているようで、まだまだ夜の闇が夜明けを阻んでいる、夜と朝、闇と光の狭間の時。
目覚めの理由は、グッスリと眠っていた筈の飛鳥が、俺の腕の中でモゾモゾと身体の向きを変えたからだった。
それまで胸に触れていた飛鳥の滑らかな背中の肌が遠ざかり、今度は彼女の鼻先と、短く切り揃えられた髪の毛が、俺の皮膚を擽る。
俺の胸に顔を埋め、腰にギュッと腕を回してきた飛鳥は、眠っているのか、起きているのか。
カサカサと頭が微かに動いている。


「……飛鳥?」
「…………ん?」
「起きてるのか?」
「…………ん〜。」


短い返事だけが戻ってくる。
顔を覗き見れば、瞼は完全に閉じたままだ。
覚醒の一歩手前、淡い微睡みの中に居るといったところか。
意識は起きてはいるが、瞼を開きたくない、まだ眠っていたい、そういった気怠い葛藤と、意識の奥底で戦っている真っ最中なのだ。


「……雨、……降ってる。」
「あぁ、まだ止まないな。昼から、ずっと。」
「音……、心地、良いね……。耳に……。」
「音? 雨音の事か?」


目を固く閉じたまま、ポツリポツリと呟く飛鳥。
腕の中から届くゆったりと柔らかな声に耳を傾け、そして、雨音に耳を澄ます。
ザーザーと規則正しいリズムを刻んでいると思っていたが、こうして雨音にだけ集中すると、それが決して一定ではなく、様々なメロディーを奏でているのだと知る。
地面に打ち付ける音は不規則で、時折、バチンと大きく弾ける音がする。
雨を受ける石畳の形や大きさによっても変わるのだろう。
だが、それだけではない、急に早くなったり、小さくなったり、小刻みになったり、派手な音を立てたり。
風の悪戯なのか、刻一刻と変化していく雨の音色。
絶え間なく違うメロディーを奏でているのに、決して不協和音にならない自然の音色だからこそ、耳に心地良く響くのだと、微睡みの中の飛鳥が囁く。


「……ふふっ。」
「今度は何だ? 何が可笑しい?」
「夕方の話。ディーテがね、雨降りだから、ずっとイライラしていて。で、顔を出したアイオリアに八つ当たりして酷かったのよ。」
「アイツ……。」


雨降り……、イライラ……、八つ当たり……。
昔から変わらんな、雨降りの日の、ヤツの苛立ちの原因は。
湿度のせいでぼさぼさに広がり思い通りに纏まらなくなる、あのモサモサの髪の毛だ。
天然パーマの宿命か、子供の頃は、俺もデスマスクも降雨日には頻繁に当たり散らされていた。


「それでか。アイオリアが人馬宮に来た時、何とも言えない困り顔をしてたから、不思議だった。」
「ディーテって、普段は大人なのに、時々、妙に子供っぽくなるわよね。ふふっ。」


ここにきて、スッカリ微睡みから覚めた飛鳥は、元より丸い目を更にクリンと丸くして、腕の中から俺を見上げてくる。
そろそろ夜も完全に明けて良い時間。
しかしながら、この雨が分厚い雨雲の壁で朝日を遮り、俺達を薄暗い部屋の中の閉じ込めたままにする。
何となく気怠くて、何となくベッドから離れ難い。
俺は飛鳥の額にキスと一つ落とすと、ゆっくりと華奢な身体の上に覆い被さった。
後はただ微睡みの続きのような甘い愛撫を、ゆっくりゆっくり交し合うだけ……。



雨音のベールの中、二人だけの朝を



(……シュラさん、シュラさん。もう朝なんですけど。)
(構わん。時間なら、まだたっぷりある。)
(いや、シュラは構わなくても、私は構うんですが。仕事に支障をきたすんですが。腰が痛いと、お菓子を作るの大変なんですが。)
(そんなもん知らん。)
(えぇ〜?!)



‐end‐





結局、最後はムッツリ全開で暴走するのが、いつもの我が家の山羊さまですw
まぁ、当然、我慢なんて出来ないし、する訳もないのですよ、あのムッツリさんがねw

2018.10.01



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