petit four的デコクッキー



「ラララ〜、ララ、ラララララッ♪」


何の予定も入ってない休日は余りにも暇過ぎて、ちょっくら山羊のヤローにちょっかいでも掛けてやろうかと訪れた磨羯宮。
どうやらシュラのヤツは留守のようだったが、ヘナチョコ彼女の飛鳥は在宅のようで、いつもの定位置のキッチンから、騒音紛いの鼻歌が聞こえてくる。
俺は耳を塞いで、キッチンへと足を踏み入れた。


「オイ、コラ、飛鳥。近所迷惑を考えやがれ。酷ぇ騒音だぞ、その鼻歌。」
「あ、デスさん。こんにちは〜。」
「こんにちは、じゃねぇよ。ンだよ、その無茶苦茶な音程の歌は?」
「これですか? 蟹の歌ですよ。」


あぁ、なンだ、その蟹の歌ってのは?!
海で泳いでる本物の蟹の歌か?
それとも、俺を貶して貶める歌か?


「間違えました。蟹の歌ではなく、蟹座の歌でした。」
「完全に俺をバカにしてンじゃねぇか。あ?」
「いえいえ、滅相もない。尊敬してますよぉ。」


嘘吐け、ヘナチョコが。
つか、蟹の歌だか、蟹座の歌だか知らねぇが、そンなアホみてぇな歌を口遊みながら、一体、何の菓子を作ってンだか。
あ、もしかしてコイツ。
性懲りもなく、また死仮面モチーフの和菓子とか焼き菓子とかチョコとか作ってンじゃねぇだろうな。
蟹座の歌を歌ってたってトコロが、非常に怪しい……。


「死仮面は作ってないです、大丈夫。これは蟹さんクッキーです。」
「オイ、ちょっと待て。蟹クッキーって何だ、あ?」
「可愛いですよね〜。これがホタテ貝、これがタツノオトシゴ。で、こっちがお魚さん。海の仲間達シリーズです。」
「…………。」


てコトは、何だ?
俺とアフロディーテとカノンを、クッキーにして食おうってのか?
言葉を失っている俺を余所に、飛鳥は並べたクッキーにアイシングを施し始める。
淡いブルーやグリーン、イエローの砂糖液を丁寧に塗り、ハートや星形のスプリンクルとか、キラキラしたシュガーパールなどの砂糖飾りでデコッていく巧みさは、流石はプロのパティシエ。
女共が見たら、「可愛過ぎて食べるの勿体な〜い。」とか言い出しそうな出来栄えだ。


「デスさんもやってみます?」
「あ、俺?」
「デスさん器用だから、こういう作業は得意でしょ?」


勧められるがままデコクッキーに挑戦してみたが、これが中々に面白い。
ゴールドのシュガーパールで飾られた金ピカ魚と金ピカ海龍は、後でアフロディーテとカノンに食わせてやろうか。


「見て見て。怒り蟹さん。」
「ブッ?! 何だ、そりゃ?!」
「こっちが泣き蟹さんで、こっちが困り蟹さん。素敵な蟹さんシリーズです。」


淡いピンクのアイシングをした蟹クッキーに、チョコペンで様々な表情を描いては、キャッキャと喜んでいる飛鳥。
呆れて見てれば、赤のチョコペンで頬を染められた『照れ蟹』を大量に増殖し始める。


「オイオイ。ンなモンばっか作って、どうすンだよ?」
「シュラのオヤツ。」
「アイツに食われンなら、俺が自分で食った方が、まだマシだな。」


俺は蟹座であって、蟹とは何の関係もねぇけどな。
だが、無表情で無神経なシュラに、ひたすらモリモリ食われンのは、何か嫌だ!
すっげぇ嫌だ!


「じゃあ、これはデスさんのお土産に、どうぞ。乾いて固まったら、箱に入れて差し上げますね。」
「…………。」


考えてみりゃ、俺が蟹クッキー食ってる姿って、超シュールじゃね?
しかも、乙女全開に可愛くデコられた蟹クッキーだ。
思わず溜息を零した俺の顔を、飛鳥は頭の上に疑問符を浮かべながら覗き込んできたのだった。



似合わねぇだろ、俺にデコクッキーは!



(ラララ〜、ララ♪)
(だから、その歌はヤメロっての!)



‐end‐





蟹さまと蟹クッキーの絵が浮かんだので(苦笑)
超器用な彼は、慣れたら夢主さんもビックリの、めっちゃ高度なアイシングをして唸らせそうですね。

2018.08.10



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