petit four的海に来たぞ!



「シュラ〜!!」


波打ち際、はしゃいだ飛鳥が俺に向かって大きく手を振る。
深海の色を思わせる濃い青色の水着を身に着けた彼女は、太陽の下に立っているだけでも非常に魅惑的だ。
俺はビーチパラソルを立て終えた手を上げ、飛鳥の呼び掛けに応えた。
しかし……。


「やっぱり、あの青い水着で大正解だったね。愛らしい飛鳥に良く似合っているじゃないか。」
「……。」
「キミも、そう思うだろう、シュラ?」
「…………。」


俺達が今、居るのは、人の多い公衆のビーチではない。
折角、海に行くというのに、人目の多いところでは飛鳥とイチャ付けないし、ならばと思って、わざわざやって来たのがココ。
三方を切り立った崖に囲まれた小さな砂浜。
一般人では到底、近付く事も出来ない場所。
俺達聖闘士だからこそ辿り着ける秘密のビーチだ。
潮の流れの関係で海側からボートで近寄るのも難しい、天然のプライベートビーチとも言えるこの場所は、飛鳥と二人きりで休日を楽しむには絶好の場所だった。
筈なのだが……。


「……何故にお前が居る?」
「何故って、キミと飛鳥の二人きりで海なんて来たら、絶対にイチャイチャするだろう?」
「当然だ。そのために、わざわざこんな場所まで来たんだ。」
「だから、付いてきたのさ。こんな真っ昼間から、こんな開放的な場所で、飛鳥に不埒な行為をしようと目論むムッツリ山羊から、彼女を守るためにね。」


大荷物を抱えて磨羯宮を出たところで、アフロディーテと出くわしてしまったのが、全ての運の尽きだった。
守るなどと口先ばかりの口実で、本当は邪魔しに来ただけだと分かっている。
あとは飛鳥のキュートな水着姿を拝みに来たのだろう?
本来であれば、俺だけが見て良い筈の彼女の水着姿なんだがな……。


「そう怒るなよ。ちゃんとキミの水着も選んでおいてやっただろう。」
「どうせお前のを買うついでだろうが。」
「まぁ、そうなんだけどね……。」


俺が今、履いている水着も、飛鳥の青い水着も、ついでに言うとアフロディーテの履いている水着も、先日、二人が買物に出掛けた時に選んだものだった。
水着を買いに行くと知らなかったとはいえ、恋人の俺を差し置いて、コイツが飛鳥の水着を選ぶなどと、本来なら絶対にあってはならない、言語道断だ。


「だが、私のセンスは間違っていなかっただろう? あの水着は、あんなにも飛鳥に似合っているんだから。」
「まぁ、そうだな……。」
「キミの水着だって、黒のオーソドックスなものを選んで上げたじゃないか。意地悪するなら、派手な薔薇柄の水着だって良かったのにさ、そうしなかったんだよ。」
「…………。」
「それにさ、シュラ。どうせキミは水着選びに誘われたところで、『女物の水着売り場なんぞ、恥ずかしくて一緒になど行けるか!』って、断っただろうしね。」


図星過ぎて何も返せない、グッと返答に詰まる。
そうだ、その通りだ。
女の水着売り場など、そこに足を踏み入れる事すら想像したくない。
その上、他人の視線がある中で、飛鳥の水着を選ぶなどと、一種の拷問だろう。
考えただけでも震えが走る。


「それで良く『恋人の俺を差し置いて』なんて平然と言えるよね。」
「それは……、最近はアレだ。ネット通販などもあるし、店舗に行かずとも一緒に選ぶ事は出来るだろう。」
「ネット環境のない聖域で、どうやって注文をするんだい? そして、どうやって配送してもらう気なんだい?」
「…………。」


誤魔化し程度に思い付きを口に出してしまった自分のアホさ加減に、言葉が出ない。
そんな俺を憐みの目で眺めた後、アフロディーテは肩を竦めた。
気まずい沈黙に耐え切れず、視線を外して海を見る。
すると、既に海の中を泳いでいた飛鳥が立ち上がり、また俺に向かって元気に手を振った。
まぁ、良いか。
飛鳥が傍に居ればそれだけで、俺は満足で、満たされて、幸せなのだ。



良し! 泳ぐぞ!



(あともう少し胸があれば完璧なのにね。)
(それは間違っても飛鳥には言うな。それに俺はあれで満足だ。)
(ふ〜ん、キミって絶壁好きだったんだ。)



‐end‐





まだまだ暑いですね。
この暑さが退かない限り、暫く海シリーズが続きそうですよ。
そして、山羊さまの海パン姿を拝みたいですw

2018.08.03



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