告白は苺クラフティの味



他人の噂話とは、どうしてこうも楽しいものなのか。
それが自分の身近にいる人物、真面目臭い顔で、いつもムスッとしている男の話ならば、尚の事。
今しがた偶然、見てしまった光景と、それに伴うアレやコレやを誰かと話し倒したくて、私は駆け足で目の前に聳える十番目の宮に飛び込んだ。


「大変だ! 聞いてくれ!」
「あぁん、なンだぁ? 騒々しいな。」
「何だ、キミも居たのか、蟹。」
「蟹じゃねぇ、腐れ魚が。」
「その遣り取りは聞き飽きた。で、何が大変なんだ、アフロディーテ?」


シュラと飛鳥のティータイムに乱入したつもりが、その場にデスマスクの奴も居座っていたのは予想外だった。
無口で、お喋りの場では、ほぼ空気状態のシュラは放置して、飛鳥と二人、仲良く噂話に花を咲かそうと思って来たのだが、予定が狂ってしまったな。
まぁ、居るものは仕方ない、蟹も含めてお喋りに興じようか。


「今、獅子宮の横を通って来たんだけどさ。何と! 何と、何と! アイオリアがっ!」
「あ? アイオリアが、どうかしたのかぁ?」
「告白されてたんだ! 女官の子に!」
「はぁ? 告白だぁ?」
「告白……、アイオリアが……。」


デスマスクはコーヒーカップを持っていた手を、シュラと飛鳥はケーキを突いていたフォークをピタリと止めて、唖然と私の顔を見遣った。
フフフ、こちらは私の予想通りだ。
皆、目を真ん丸にして驚いているな。


「ねぇ、ディーテ。その女官さんって、どんな子なの? 可愛い子? それとも綺麗な子?」
「半年前から私達・黄金聖闘士の執務室付きになってる子さ。小柄で大人しくて可愛い子だよ。」
「あぁ、アイツか。確か、十八とか言ってなかったか? 羨ましいねぇ、若ぇ女にモテて。」
「僻みか?」
「違ぇよ。俺は乳臭ぇ女には興味ねぇの。」


とか何とか言いつつ、これは完全に僻みだよね。
カップに残っていたコーヒーを一気に飲み干したのが、その証拠。
嘘を吐くなら、もっとポーカーフェイスを保たなきゃね、意味がないよ。
シュラもデスマスクの嘘に気付いたのか、呆れたように片眉を上げ、フォークで掬ったケーキを口に運んだ。


「それで?」
「ん?」
「結果はどうなったんだ? アイオリアはOKしたのか?」
「いや、それは知らない。」
「は? 知らないって、どういう事だよ、オマエ?」


再び皆の手が止まり、真ん丸に見開いた目で、一斉に私を見遣った。
そんなに驚く事もないだろうに、デスマスクに至っては、「チッ。」と舌打ちまでして、不服そうに眉を顰める始末。


「だって、私は偶然、通り掛かった際に、本当に偶然、告白シーンを見てしまっただけなんだから。その続きは通り過ぎてしまっていたので、見ても聞いてもいないのさ。」
「オマエなぁ。そこは最後まで見届けろよ。気になるだろが。」
「そこまでしたらデバガメになってしまうだろ。そんなの下世話過ぎる。」
「下世話も何も、俺達に言い触らしている時点で同じだろう。」


わざわざ隠れて覗き見するのと、皆で楽しく噂話するのが同じとは思えないけれどね。
どうやら、そう考えているのは私だけのようで、蟹と山羊からの白い目光線が痛い痛い。
全く……、結末なら後でアイオリア自身に聞けば良いだけじゃないか。
顔を真っ赤にしながら、はぐらかそうと思って、でも、出来なくて、結果的に、しどろもどろに答えてくれるよ、きっと。
そんなアワアワと慌てるアイオリアを問い質してからかうのも楽しいと思わないかい?


「そりゃ、まぁ、確かに面白そうだけどなぁ……。」
「だろう? アイオリアこそポーカーフェイスが苦手だからね。」
「でも、良いなぁ、告白。このケーキの苺みたいに甘酸っぱくて、羨ましいな。」


ケーキ、彼女お手製の苺クラフティを串刺しにしたフォークを手に、ぽわわんと目を細める飛鳥。
恋に憧れる女の子のように、うっとりと遠くを眺めている。
ん?
でも、飛鳥なら、誰もが羨むような熱烈な告白を、そこの目付きの悪いムッツリ山羊から、たっぷりと受けているんじゃないのかな?





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