petit four的間食のススメ



ブルリと身を切るような寒さの中、大きな段ボール箱を抱えて十二宮の階段を下る。
冷たい風が右から左へと吹き抜け、バサバサと煽られる法衣の裾。
それが足首に絡んで邪魔だったが、両手が塞がっているのでどうする事も出来ない。
気になるが、仕方がない。
裾を直すのは諦めて、そのまま先を急いだ。


「邪魔をするぞ、飛鳥。」
「あ、サガさんだ。こんばんは。頬っぺた真っ赤ですね。」
「外は予想以上に風が強くて寒かったからな。」


山積みの書類に、ここ数日、時間を取られ、自宮に帰る暇もなかった。
たった三日の間に、こんなに寒くなっていたとは。
教皇宮に上がっていった日は暖かく、風も穏やかだったのに、今は肌を刺す冷たい風と真っ白な息、雪でも降りそうな寒さに変わってしまった。


「はいはい。じゃあ、これで温まってくださいな。サガさん、手を……。」
「おおっ。これはホワホワで、ホカホカな……。」
「蒸し立て出来立てのピザまん。温か〜いうちに召し上がれ。配達係さんにお礼です。」


飛鳥から受け取った真っ白なピザまんは、火傷しそうな程に熱くて。
それを持つ手だけでなく、噛り付いた口内や、飲み込んだ喉の奥、胃の中までジンワリと温めていく。
味・香り・見た目と、味覚・嗅覚・視覚で楽しませてくれる飛鳥の飲茶に、心の中まで癒されていくようだ……。


「わっ。いっぱい詰まってる。サガさん、これ、重たかったでしょう?」
「いや、この程度、大した事はない。」


先刻、日本から戻られたアテナに頼まれた宅配係。
双児宮に帰るのなら、ついでに磨羯宮へ荷物を届けて欲しいと、この段ボールを渡されたのだ。
見た目以上に重量があり、一体、何が入っているのかと思ったのだが、どうやら中身は日本に居る飛鳥の祖父母からの届け物だったようだ。
嬉々として荷物の中身を覗き込む飛鳥は、非常に楽しそうだった。


「沖縄の黒砂糖に、伊豆大島の海塩でしょ。これは十勝の小豆、それと魚沼産コシヒカリの米粉。丹波の乾燥黒豆に、杏の砂糖漬けに、あ、甘納豆もいっぱい。大納言小豆と白花豆とうぐいす豆、金時豆もある。美味しそう……。」
「これは何だ?」
「あ、それは和栗の甘納豆ですね。って、あれ? 栗は豆じゃないから、甘納豆じゃなくて、甘納栗(あまなっくり)になるのかな?」


次から次へと段ボールの中から取り出しては、黄色い声を上げる飛鳥。
何やら訳の分からぬことを呟いて、一人でキャッキャと喜んでいる。
この子は本当にスイーツを作る事が大好きなのだな、食材を見ただけで、こんなにもテンションが上がるとは。


「あ、おかきも入ってる。」
「……おかき?」
「お祖父ちゃんお手製のおかきは、シュラの大好物なの。」


ニコニコと嬉しそうに袋を取り出し、中身をテーブルの上に並べていく飛鳥。
ウキウキと今にも小躍りを始めそうな様子は、まるで小さな子供のようで、可笑しいやら、可愛らしいやら。
そうかと思うと、ふと何か思い出したのか、奥の部屋へと走って消えていき、直ぐに戻ってくる。
手には一枚の紙袋を持って。


「はい、サガさん。」
「しかし、これは……。」
「良いの良いの、持っていって食べてくださいね。とっても美味しいんだから。」


紙袋におかきと甘納豆、それに栗の袋を幾つか詰めて、飛鳥はそれを私の手の中へと押し込んだ。
執務の合間のオヤツに丁度良いからと言って。
しかし、私が貰ってしまっては、シュラの分が無くなってしまうのではないか?


「シュラは食べ過ぎだから問題なし。そして、サガさんは働き過ぎで、頭の使い過ぎ。脳味噌の餌に糖分を与えないと、疲れが溜まってヘロヘロになっちゃいますよ。」
「脳味噌の餌……。」
「そうです。脳に糖分は必要不可欠。シュラはちょっと摂り過ぎですけどね。」
「ちょっとどころではないだろう、アレは。」


言ってしまってから自分でも可笑しくなり、思わず噴き出した。
チョコレートを少し摘まむどころではなく、モリモリと一箱を一気に食べながら、報告書を書き上げていくシュラの姿が浮かんだからだ。
アイツはチョコを口に入れた途端に文字を書くスピードが上がる。
確かに、糖分は脳に必要な栄養なのかもしれんな。


「私も見習って、デスクの引き出しに甘納豆を潜ませるか。疲労を感じたら、直ぐに食べるとしよう。」
「サガさんも、食べた瞬間から仕事の効率アップするかもですね。ふふっ。」


ニコニコ笑って私を見上げてくる飛鳥の可愛らしさに癒されながら、手の中に三分の一程、残っていたピザまんを口の中へと放り込む。
ジュワッと口の中に広がる旨味と、身体の全てを温める肉汁に、心までスッカリ解されて。
私はニイッと一つ、笑ってみせた。



食べてホクホク、心はホカホカ



(珍しい。サガが間食してるぞ。)
(アレは何だ? 豆?)
(豆だな。うん、豆だ。)



‐end‐





執務をこなしながら、ポリポリと甘納豆を食べるサガさまを妄想したら萌えましたw
そして、書類にポロポロとお砂糖を零し、ベテラン女官さんに怒られてたりすると可愛いですw

2018.02.20



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