petit four的バレンタイン計画



「う〜ん……。」
「どうしたんだい、飛鳥?」


ある寒い日の午後。
ほわりと湯気の上がるティーカップに手を伸ばす事もなく、飛鳥がウンウンと唸っている。
その手元を覗き込んでみれば、そこには可愛らしいお菓子のイラスト、ハートの形をしたスイーツが描かれていた。


「もしかしてバレンタインスイーツ?」
「そうなの。今年はシュラに、どんなチョコスイーツを作って上げたら良いんだろうって、悩んでいたの。」
「何だって良いんじゃない? アイツはキミの作ったスイーツなら何でも美味しく平らげるだろうしね。」


トントンとスケッチブックの端を指で叩いた私を、一瞬だけチラリと見上げ、飛鳥はまたウンウンと唸り声を上げた。
確かに、シュラなら何でも喜ぶだろう。
だが、彼女のパティシエとしてのプライドが、適当なもので妥協する事を許さないのだ。
シュラのために悩んで、悩んで、悩んで、そうして作り上げたものを贈りたい。
幸せだね、アイツは。
ホント、自分がこんなに幸せだと分かっているのかな、あの憎らしい鉄面皮は。


「これは?」
「ハート形のチョコレートチュロス。それにラズベリー味のピンク色のチョコレートで、半分だけコーティングをするのよ。チュロスのチョコはビター過ぎるくらいビターで、ラズベリーチョコは見た目と同じ可愛らしい甘さにしようと思うの。」
「聞いただけで美味しそうだ。是非、私も味わってみたいね。で、こっちは?」


ハートのチョコパイ、何の代り映えもないスイーツ。
そう言って、飛鳥は苦く顔を顰めた。
彼女の事だ、勿論、普通のチョコパイではなく、色々と工夫はするのだろうけれど、それでは納得出来ないと、その表情は如実に語っている。


「ハートのチュロスで良いんじゃないの? 何が気に入らないの?」
「チュロスっていうのが、ちょっとね。」
「どうして? シュラの好物だろう、スペインの定番スイーツだし。」
「だからなの。チュロスとチョコレートドリンクは、シュラが頻繁に食べている朝御飯なの。」
「アイツ……。朝食まで、そんな激甘なのか……。」
「それこそスペインの定番だからね〜。シュラだけじゃなく、皆がそういう朝食を摂っているからね〜。」


冗談のつもりなのか、本気の言葉か。
飛鳥は苦い笑みで、フフフと空笑い。
目が笑っていないんだけど、怖いんだけど、飛鳥……。


「も〜、どうしたら良い? 何を作れば良いと思う、ディーテ?」
「私に聞かれてもね。私はシュラじゃないから何とも言えないよ。あぁ、でも……。」
「でも?」
「いっそ、ハートのチョコパイでロシアンルーレットでもしたら良いんじゃないかい。」


ハバネロジャムだっけ?
あのアイオロスのサンドイッチに入れたとかいう激辛ジャム。
チョコパイの中に、一つだけハバネロパイを潜ませて、ロシアンルーレットにしてしまうんだ。
普段、ノホホンと菓子を貪り食っているアイツには、丁度良い緊張感になるだろう。
幸せボケ解消には持って来いの刺激じゃないか。


「でも、シュラならどれか一個と言わず、全部食べちゃうと思うけど?」
「そこは飛鳥がちゃんと伝えなきゃ。ハバネロ入りがあるから気を付けて選んでね〜、とかさ。」
「う〜ん……。」


最初に戻って堂々巡り。
飛鳥は再び思考の海に泳ぎ出し、スケッチブックを前にウンウンと唸る。
これは、私が何を言っても無駄かな。
彼女が納得するものなんて、そう簡単には提案なんて出来やしないのだから。
ま、バレンタインまでには時間もたっぷりとある事だし、ゆっくり考えたら良いさ。



チョコレートの迷宮に、いざ!



(飛鳥。シュラのチョコも良いけど、私の分もちゃんと考えてくれてるかい?)
(…………。)
(あぁ、そう。考えてないんだ。)
(だ、大丈夫よ。シュラのチョコに目途が付いたら、ちゃんと考えるから、ね。)
(とか言って、手抜きしなきゃ良いけれど……。)



‐end‐





こうなったら、いっそ駄菓子屋で購入したシガレットチョコでも渡したら良いよ(投げ槍)
あ、それは蟹さまに上げた方が面白いかw
山羊さまにはチロルチョコのバラエティーパックで良いんじゃないかなw

2018.01.25



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