petit four的寂しいクリスマス



最初こそ、至極平和だった。
食事は和やかに進んだし、お酒も今日という日に相応しいものだった。
デスマスクが珍しく気合いを入れて作った料理はどれも美味で、今夜のために奮発して購入したシャンパンやワインは全てが美酒だった。
お喋りは楽しく、雰囲気は明るく、気分は上々、ささやかなパーティーは盛り上がりをみせていた。
私達はそれらに満足していた筈で、少しの不満もない筈だった。
しかし……。


「……つまんない。」


アルコールも杯が進み、かなり酔いも回ってきた頃。
飛鳥の様子が一変した事に気が付いた。
そう、気付いた時には遅かった。
それまでは楽しげにお喋りをし、私達とワイワイと機嫌良くしていたのに。
彼女の酔いが、ある一点を越えた瞬間から、腹の底に沈殿していた不満が抑え切れなくなってしまったのだろう。
その愛らしい頬をお饅頭のようにプックリ膨らませ、尖った唇からは溢れ出るままに不満が次々と噴出していく。


「あぁ? 何がつまンねぇって言うンだよ? 美味い料理に美味い酒。強かに酔っ払って、ガハハと笑って、凄ぇ楽しいじゃねぇか。」
「そうだよ。キミだって、さっきまでは楽しそうに笑っていたじゃないか。」
「つまんないものは、つまんないの……。」


アルコールに酔った座った目で入口のドアを一点凝視する飛鳥は、どうにもこうにも機嫌が悪い。
お饅頭ほっぺは、更にプクプクと膨らむばかりだ。
不満の原因は、まぁ、分かり切っている。
今日がクリスマスだという事。
そして、肝心のシュラが任務でいないという事。


「仕方ないだろう、任務なんだから。シュラが行かなければ、他の誰かが行かなきゃならないんだよ。」
「でも、シュラは前々から今日は休みだから一日中一緒に過ごせるって言ってたもん。」
「任務だからね。急に決まる事もあるさ。」
「だったら、デスさんかディーテが行けば良かったのに……。」


そうはいっても、デスマスクは今朝、任務から戻ったばかりだし。
私は私で、明日の昼には別の任務に赴かなければならない。
緊急任務が入った場合には、決められたスケジュールの中から、今直ぐに、対応出来そうな聖闘士が選ばれる。
それがたまたまシュラだったのが、飛鳥の今季最大の不幸に繋がってしまったという訳だ。


「つまんない。クリスマスにシュラがいないんじゃ、最高につまんない。」
「お〜い、文句ならアイオロスのヤロウに言え。決めたのアイツなンだからよ。」


飛鳥の頬が更に膨れ上がる。
多分、今は夜勤警護で教皇宮に待機しているアイオロスの、ヘラヘラとした胡散臭い笑みを、頭の中に思い浮かべているのだろう。
手にしたグラスを握り潰す勢いで、ギリギリと力が入っているのが見える。
私は慌てて飛鳥の手からグラスを奪い取った。


「アイオロスさん……。そう、アイオロスさんね……。」
「飛鳥……。目が、目が怖いよ。」
「オイオイ、何を企んでやがンだぁ、飛鳥?」


薄く開いた唇から、フフフフと酔っ払い特有の怪しげな笑みを漏らし続ける飛鳥。
これはデスマスクの言う通り、何か非常にとっても危険な事を企んでいるのはないのかと(アイオロスの事が)心配になった瞬間だった。



クリスマスに貴方がいないだなんて聞いてない!



(確か、アイオロスさんは苺ジャムが好きでしたよねぇ……。デスさん、ちょっとキッチンでお手伝いお願いします。)
(オイ。オマエ、何をしようってンだ?)
(そりゃあ勿論、差し入れのサンドイッチ作りですよぉ。大量ハバネロ入りのジャムサンドを……、フフフフフ……。)
(こ、怖いよ、飛鳥……。)



‐end‐





夢主さんの暴走を誰も止められなかった結果、翌朝、夜勤警護明けのロス兄さんが、差し入れのジャムサンドを勢い良く食べ、聖域中に悶絶の絶叫が響き渡ったとか言います(苦笑)
最近、ロス兄さんが不幸になってばかりですね(汗)

2017.12.24



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