「……ただいま。」
「やぁ。お帰り、シュラ。」
「アフロディーテ?」


何故、お前がココに?
口に出しては言わなかったが、無口で物言わぬ唇よりも、眉間に寄った深い皺が、如実にそうと語っていた。
自分の宮、しかも、愛しい女と共に暮らすプライベートな空間に、親友とはいえ勝手に男が上がり込んでいたとあっては、この反応は当然だろう。
立場が逆であったなら、私だって良い顔はしない。
だが、私は敢えてシレッとした顔をして、彼に椅子を勧めた。
今、飛鳥がお茶を淹れて戻ってくるからと、それだけ言って。


「これはハロウィンの菓子、か? そう言えば、アテナが飛鳥に何か頼み込んでいたな。」
「そ。だから、休暇中の私が駆り出されたって訳さ。」
「飛鳥にか?」
「そ。呼ばれて来てみれば、単なるラッピング要員でね。期待して損したよ。」
「嘘吐け。初めから期待などしてなかっただろう。」
「ふふっ、どうかな。」


含み笑いを零したところで、飛鳥がティーセットを乗せたトレーを手に現れた。
そこで初めて、シュラが帰宅していた事に気付いたらしい。
驚いた顔をしてトレーをテーブルに置くと、まるで猫のようにシュラに飛び付いて、その頬にチュッとキスをした。
一方、それを受け止めた方のシュラはというと、ピシッと身体を硬直させて、目を釣り上がらせているではないか。
とても恋人と帰宅の挨拶をしている表情には見えない。
しかも、飛鳥がシュラの分の紅茶を淹れに、再びキッチンへと消えてしまうと、見計らったように大きく大きく溜息を吐き出す始末。


「はぁ……。」
「シュラ。いい加減、そろそろ慣れたらどうだい?」
「そうは言っても、だな……。」


人前では絶対にベタベタしない。
それどころか、甘い雰囲気になった時以外は、常にぶっきら棒に相手を突き放す。
それが原因で飛鳥を不安に陥れ、挙げ句、彼女を泣かせては喧嘩になる、その繰り返し。
結局は、飛鳥を手離したくないシュラが折れ、人前だろうと多少のスキンシップを取ろうという約束までしたのだが。
この愚直な男は、未だそれに慣れずに、他人の視線がある場所で飛鳥が抱き付いてくる度に、こうして殺し屋のような恐ろしい表情で固まってしまうのだ。


「私は親友だぞ。今更、気にしてどうする? こんな事では、いつまで経っても進展なしだ。」
「俺だって、それなりの努力はしている……、つもりだ。」
「全く。二人きりだと、とんでもなくラテン男だっていうのに、たった一人、他人が混ざるだけで、こうも変わるものか。呆れて溜息が出そうだよ。」


この男の事だ。
ベッドの中では、夜な夜な飛鳥の耳元に、情熱的な愛の言葉を囁いているのだろう。
でも、女の子には、ましてや本気で愛している相手には、それだけでは駄目だという事を、いつになったら、ちゃんと理解するのだろう、この木偶の棒は。


「お待たせ〜。」
「あぁ、良い香りだ。ダージリンかな?」
「この間、シュラと出掛けた時に、新しい茶葉を買ったの。味もね、さっぱりしていて美味しいのよ。」


ふ〜ん、お出掛け、ねぇ……。
チラと横目で隣のシュラを見遣りながら、飛鳥には聞こえないよう小宇宙を使って、彼に話し掛けた。


(ちゃんと飛鳥と手を繋いで歩いたかい?)
(煩い。お前には関係ない事だ。)
(関係あるさ。約束したろう? デートの時は、手を繋ぐか、腕を組むか。破れば罰則、だったよね。)


額を押さえて、深い深い溜息を漏らすシュラ。
その反応を見るに、どうやら約束は守ったらしい。
が、シュラにとっては、罰則を受ける以上に大変だったらしい事が、その様子から窺える。





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