petit four的夏の風物詩



「よぉ。暇そうだな。」
「……暇に見えるか?」


ジリジリと肌を焼く強烈な日差しを浴びながら上ってきた十二宮の階段。
額の汗を拭いつつ顔を出した磨羯宮では、暑かろうが寒かろうが不機嫌を顔に貼り付けたような表情をした悪友が、勝手に入り込んできた俺を鋭い視線で見上げた。


「報告書か?」
「あぁ。昨日の任務のだ。サクッと書けるかと思っていたが、暑さで思うように頭が回らん。」


冷たい飲み物にばかり手が伸びて、キーボードを打つ手がサッパリ進まないってワケか。
こうも暑ぃと、そうなるのも分かる。
実際、俺も昨日はそンな感じだったしな。


「飛鳥に頼んで、アイスか、かき氷でも作ってもらえばイイじゃねぇか。冷たくて美味い氷菓でも食やぁ、気分も変わンだろ。」
「…………。」
「何? ゲンナリした顔して。何かあったか?」
「……制限されている。」
「あ?」


聞けば、突然に訪れたこの暑さに耐えきれず、ストックされていたアイスを食い捲った挙げ句に、糖分の取り過ぎだと飛鳥に怒られて、残りのアイスを全て没収されたらしい。
まぁ、自業自得だな。
イイ大人なンだから、節操くらいはあるだろうに、コイツはそこの制御が自分で出来ねぇってのがな。
呆れてモノも言えねぇンだが。


「そういや、飛鳥だ。この間、俺の宮の真ん中辺りで、一人で座り込んでジーッと壁を見てたンだが、何だぁ、ありゃ? 不気味で声も掛けらンなかったが……。」
「お前の宮で? あぁ、確かアレだ。お供えものをして、手を合わせてきたと言っていたな。」
「はぁ?」


なンだ、そりゃ?
他人の宮の真ん中で一人、座り込んで手を合わせるだと?
供えモンって、何なんだ、一体?


「死仮面だ。」
「あ?」
「たまたま通り掛かった時に、壁に死仮面が出たらしくてな。」


それで一旦、磨羯宮に戻って、供えモン(自分で作った和菓子の作り置きらしい)を持って戻って来た、と。
ホント、アホな女だな、呆れてモノも言えねぇし。
てか、ンな事してたらキリねぇだろ。
定期的に浄化してるとはいえ、次から次へと湧いて出てくるヤツ等だ。


「供えモンは、どうした? 宮の中には、ンなモン残ってなかったぜ。」
「直ぐに持ち帰って、俺が後で食った。供えた後は、生きている者が美味しくいただくのが礼儀だ。残しておいて、白銀の何とかって奴のカラスが巨蟹宮の中に群がっても嫌だろう?」


確かに、そりゃ困る。
その前に、カラスが群がってくるようなモンを持ち込むなって話だが。
まさか俺が知らねぇだけで、今までにも同じような事をしてたのか?


「…………。」
「答えねぇってコトは、そうなのか?」
「手を合わせても消える事はないが、多少、叫びは小さくなると言っていたぞ。それに、死仮面をシッカリ観察する時間にもなるとか何とか……。」
「観察って、オマエなぁ。」


死仮面を観察する女って、どうよ?
男でもビビる死仮面を平然と眺めるとか、完全に頭おかしいだろ。
しかも、そこから死仮面モチーフの和菓子とかクッキーとか作っちまうンだから余計に。


「……しかし暑いな。書類が進まん。」
「なら、この部屋を死仮面だらけにしてやろうか? 飛鳥も喜んで観察するだろうしよ。」
「止めてくれ。この暑さのなか、あの悲鳴を聞いたら、気が変になる。」


全くだな。
幾ら暑い暑〜い夏の真っ盛りとはいえ、オバケも死仮面も怖くねぇ女なンて、どっかおかしいに決まっている。



ヒヤリと寒い風物詩
天然のお化け屋敷じゃねぇぞ



(つか、なンで飛鳥は怖くねぇンだろな、アレが。)
(飛鳥にしてみれば、芸術的なものにでも感じてるのではないか。)
(死仮面が? 気味の悪ぃ悲鳴上げてンのに?)
(時々、頭を撫でたりもしているらしいぞ。)
(マジ、アホだろ……。)



‐end‐





巨蟹宮の中で、一人ポツンとしゃがみ込み、死仮面にお供え物を供えて手を合わせる夢主さんが書きたかっただけです、すみません;

2017.07.09



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