「パティシエは甘いものばかり作る訳じゃないのよ。お店勤めだと、カフェメニューも多くあるし。製菓学校でもカフェメニュー専門の講座もあるんだから。」
「カフェメニューねぇ……。」
「そう。サンドイッチとかホットドッグ、キッシュにフォカッチャにパスタも。」


そういえば、飛鳥の作るサンドイッチは、いつも美味しかった。
アボカドと海老、たっぷりふわふわトロトロ卵、スモークチキンに新鮮なトマトとレタス。
なる程、そういう軽食も、この可愛いパティシエさんの得意分野だったという事か。


「パンも私が焼いているのよ。サンドイッチ用の食パンも焼くし、朝御飯に食べているバゲットも。」
「それは知らなかった。サンドイッチのパンは、もちもちフワフワで柔らかくて、とっても美味しいと思っていたんだ、いつも。」
「ありがと、ディーテ。シュラなんて甘〜いパンの時しか、美味しいって言ってくれないのよ。餡パンとか。」


全く、あの朴念仁ときたら……。
飛鳥の事をスイーツ製造機か何かだと思っているんじゃなかろうか。
餡パンだって?
どうして、そういつもいつも甘いものばかり。
アイツは黒砂糖そのものでも舐めていれば良いだろう。
いっその事、サトウキビの茎でも齧っていれば良い。


「はぁ……。」
「ディーテ、溜息。」
「ん?」
「溜息ばかり吐いていると、幸せが逃げるって言うでしょ? 少しは我慢しなきゃね。」
「これは呆れの溜息だよ。しかも、原因はキミの恋人だ。不幸になるならシュラだと思うけど。」
「駄目よ。シュラが不幸になったら、私も一緒に不幸になるもの。」


プイと頬を膨らませた飛鳥の愛らしい表情を横目に、サクサクのパイを頬張る。
一口、二口、齧り付いた先からトロリと溢れ出てくる海老入りのホワイトクリーム。
他に余計な具材の入っていないシンプルなクリームソースは、だからこそ海老の旨味が凝縮されていて美味しかった。


「……オイ、飛鳥はいるか?」
「おや? 噂をすれば超甘党の山羊が来た。」
「シュラも一緒にティータイムしていく?」
「いや、急いでいる。」


シュラは、これから急な任務だと言って、了承も取らずにパイを一個、ヒョイと口に咥えると、口をモグモグ言わせながら、あっと言う間に姿を消した。
歩きながら食べるのは行儀が悪いと、幼い頃にサガに注意されただろうが。
ヤツのマナーの悪さは誰が何を言っても治らないに違いない。
もう一つ呆れの溜息が零れる。


「今日は執務だから、夕方には帰るって言っていたのにな……。」
「こればかりは仕方ないね。急に任務が入った場合は、動ける人間が行くしかない。」
「それはココに来た時から分かっているけど……。でも、文句の一つ二つくらい言ったって、罰は当たらないでしょ?」


そう言って、再び頬をプクリと膨らませ、腹いせとばかりにグラタンパイに齧り付いた飛鳥の姿が、まるでカリカリと木の実を頬張る子リスのようで。
そんな愛らしい彼女の仕草に、思わずフッと笑いが零れてしまった。



可愛いリスさん、冬眠準備ですか?



(リスじゃないわよ、ほっぺにドングリもクルミも貯められないもの。)
(いやいやリスだって。ちまっと食べる食べ方もソックリ。可愛い、可愛い。)
(それで可愛いとか言われても嬉しくないんですけど。でも、いっそリスになって冬眠したいわ。冬、寒過ぎるもの……。)



‐end‐





寧ろ、私が冬眠したいです。
出来れば山羊さまの胸板枕で、気が済むまで冬眠希望w

2017.12.05



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