寒い雪の日



「今日も雪景色だねぇ……。」


そう言って、窓の外を覗き込む飛鳥。
その向こう、外の景色は真っ白な雪に覆われていた。
秋の終わりに突然、聖域に襲来した寒波は未だ止まずに。
一時だけの雪だと思っていた気候も変わる事なく、数日前に降り積もった雪は、そのまま聖域の景色を白一色で埋め尽くしている。


「直ぐに溶けるかと思ったんだけどね。」
「暖かな部屋から、この景色だけ眺めているのには素晴らしいんだけどな。色とりどりの薔薇が被った、真っ白な綿帽子だなんて、まるで絵画みたい。こんなに寒いのに、どうして枯れないのかしら?」


そりゃあ、私の小宇宙をたっぷりと分け与えているからね。
普通の薔薇は当然、こんな季節には咲かないし、氷点下に迫る寒さの中で美しさをキープするなど到底、無理な話。
だけど、この双魚宮の薔薇だけは、私の力によって特別な薔薇として咲き誇っていられるのさ。


「雪の冷たさにも屈しない薔薇だなんて、凄いわね。私なんて雪景色が綺麗だとは思っても、外に出たくなくなっちゃうのに。」
「飛鳥は雪が嫌いなのかな?」
「嫌いじゃないけど。でも、やっぱり何処も彼処も寒くなっちゃうから。」
「シュラに暖かなコートを買ってもらったんだろう? 確か日本で。」
「そうだけど……。ダウンのコートじゃ、部屋の中が寒々しいのを、どうする事も出来ないもの。」


十二宮のプライベートルームは、住み易いように現代的に改装されているとはいえ、寒さに強い造りにはなっていない。
広々とした部屋は、底冷えがするのがデフォルトなのだ。
シュラが在宮なら兎も角、一人で留守番をしていては寒いし、寂しいのだろう。
午前中にスイーツ作りを終え、午後から暇になると、飛鳥は必ず、その日に休みの黄金聖闘士の宮に押し掛けるようになった。
秋の終わり頃からだったろうか。
広い宮内の部屋で、たった一人で過ごすは、寒さが身に沁みるのだろう。


「飛鳥。コーヒーが冷めてしまうよ。」
「うん。あ、パイは?」
「大丈夫。ちゃんと温めた。ほら、どうだい?」


今日の飛鳥が持参品は、いつもの甘いスイーツとは違う、普通に食事にも出来そうなパイだった。
おかずスイーツ?
おかずパイ?
中身がクリーミーなグラタン風のパイを、彼女に言われるが儘にトースターで軽く温めてみたのだが……。


「うん、程良くカリカリで美味しそう。ディーテが淹れてくれたカフェ・オレも美味しそう。」
「珍しいね。キミがこういうのを作るなんて。」
「昨日、シュラと二人で海老のクリームコロッケを作ってみたんだけど、中身を作り過ぎて余らせてしまったの。全部、衣を付けて揚げちゃっても良かったんだけど、折角だから他のものに応用しようかな、って……。」


なる程、それでグラタンパイね。
パティシエが作るのは甘いものばかりじゃないと聞くけど、飛鳥は相棒がアレなシュラだから、糖分多めで糖度高めのスイーツしか作らないものだと思い込んでいた。
例えパンを作ったとしても、クロワッサンの間に激甘の生クリームや濃厚チョコレートクリームを挟んだ、見るからに糖分の塊みたいなものくらいだろうと決め付けていた。





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