petit four的蜜柑な誕生日



午後のトレーニングは寒空の下で行った。
雲は低く、何処までも陰鬱な色で空を覆い、冷たい風が引っ切り無しに吹き抜けていた。
冬の寒さは身体を内側からも凍えさせていくが、それが返って心身ともに鍛えるには都合が良い。
一人黙々と四時間掛けてミッチリと鍛錬をし、身体から湯気が上がる程に温まったところで、帰路に着いた。
小腹を空かせて、飛鳥の待つ宮へと戻る。


「……戻った。」
「おかえり、シュラ。わ、凄い汗だく! 早くシャワー浴びてきて、風邪引いちゃうから!」


パタパタと駆け寄ってきた飛鳥は、汗だくの俺を見て、ピタリと足を止める。
抱き付く気満々だったのだろうが、流石に、この汗ではな。
苦笑いを浮かべながら、彼女の指示に従ってバスルームへと向かった。


暖かな暖房の効いた部屋の中といえど、今日は随分と寒々としている。
隙間風などもあるのだろう。
飛鳥は膝掛けに包まって、モコモコの状態でテーブルに向かっていた。
何をしているかと思えば、数日前に届いたばかりの蜜柑、彼女の祖母がグラード財団を通じて送ってくれたものを、何故かピラミッド型に一生懸命に積み上げている。


「何だ、それは?」
「見ての通り、蜜柑ピラミッド。」
「そんな事をしている暇があるなら、別に作るものがあるんじゃないのか?」


正面にドカリと座って飛鳥を見遣ると、彼女は手を止めて首を傾げる。
オイオイ、本気で分からないのか?
まさかの事態に思わず目をクワッと見開いた。


「もしかして、シュラの誕生日の事? 心配しなくても、もう準備万端、用意は出来ているわ。」
「で、何処に?」
「せっかちだなぁ。蜜柑でも食べて、待っていてください。甘党山羊さん。」


クスクス笑う飛鳥に、不機嫌な俺。
今日の特別なスイーツを楽しみに、凍える寒さの中での鍛錬をこなしてきたのだ、待ってなどいられるか。
蜜柑?
こんなもの十個食おうが、二十個食おうが、何ら腹の足しにもならん。


「はいはい、分かりました。今、持ってくるから。そんなに目くじら立てないで。」
「目くじらなど立ててない。」
「その怖〜い目付きで?」
「目付きが悪いのは生まれ付きだ。放っておけ。」
「じゃあ放っておこうっと。」


そう言って、飛鳥は彼女の聖域であるキッチンへと消えていく。
仕方ない、気は進まぬが蜜柑でも食べるか。
ビタミンCは風邪の予防にもなるしな。
蜜柑ピラミッドの頂上から掻っ浚った小粒蜜柑の皮をメリメリと剥く。
薄皮を押し上げるはち切れんばかりの果実と、溢れる瑞々しさ。
食欲をそそる甘酸っぱい香り。
ついつい手が止まらずに、ピラミッドの半分程を一気に食べてしまった。


「あ?! 蜜柑なんてとか言ってたのに、そんなに食べたの?! 折角、ケーキ持ってきたのに!」
「日本の蜜柑が美味いのが悪い。それにフルーツとスイーツは別腹だ、心配いらん。」
「別腹って……。」


苦笑いを浮かべつつ飛鳥がテーブル乗せたケーキは、良く見覚えのあるもの。
またしても王様のリングケーキか?
彼女は余程、このケーキを気に入ったとみえる。


「また俺に肩揉みでもさせる気か?」
「大丈夫。今回は、ちゃ〜んとドコに王様が入っているか分かってるから。」
「不正は許さんぞ。」


言うが早いか、リングケーキを皿ごとテーブルの上でグルグル回してやった。
これで何処に何が入っているか分かるまい。
パッと見、目印なども無さそうだしな。
今回こそ、フェアにやろうじゃないか。


「そんな事しなくても、ちゃんとシュラに王様が当たるようにして上げるから、ね。はい、どーぞ。」
「む……。」


迷う事なくケーキにナイフを入れて、少し大きめの一切れを俺に差し出す飛鳥。
半信半疑、だが、勧められるままにケーキにフォークを通す。
そのままポイと口の中へ。


――ガチッ。


「ほら、当たったでしょ。」
「これは……、山羊座マーク?」


舌の上にゴロリと転がる堅い物質を口から出すと、どうやら王様の人形ではなく、山羊座マークの入ったメダルだった。
しかし、どうしてこの位置に入っていると分かった?
疑問符を浮かべて、飛鳥を見遣る。


「どうしてでしょうね? 愛の力とでも言っておきましょうか。」
「フッ、愛の力か……。」


俺の横に座った飛鳥は、自分も小さなケーキの一切れを摘みながら、今日は王様の望みを何でも聞きますよと、嬉しそうに笑った。
そうか、ならば今夜は目一杯、愛の力を見せつけてやる事にしよう。



王様の願いは甘い夢の中



(あ、ちなみに夜はデスさんとディーテが飲みに来るって。)
(は? 何でアイツ等が……。何故、空気を読まんのだ!)



‐end‐





お誕生日おめでとう御座います、山羊さま!
今年も素敵に格好良く、セクシーでムッツリな天然山羊さまを堪能させてください!

2017.01.12



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