petit four的元日



ユサユサと身体を揺さ振られる感覚に目を覚ます。
ゆっくりと浮上した意識、薄く開いた瞼の向こうに、朝の眩しい光を背負った飛鳥の愛らしい顔が映った。


「シュラ、おはよう。早く起きて。」
「……まだ眠い。」
「我が儘、言わないの。新年初めからお寝坊さんだなんて、黄金聖闘士として恥ずかしいでしょ。」
「関係ない。今日は休みだ、ゆっくり寝かせろ。」


再び上掛けを被ってベッドに沈もうとした俺の腕を掴み、慌てて引っ張る飛鳥。
何が何でも俺を寝かさぬつもりか。
新年早々から溜息を吐きつつ身を起こすと、既に身支度を整えた飛鳥の姿を視界に捉えた。


「……着物? 化粧までキッチリして、どうした?」
「新年ですからね。今日くらいはお着物じゃなきゃ。って、その手は何?」


飛鳥が悪い、着物姿で寝起きの俺を誘惑しようなどと。
新年の事始めには最高のシチュエーションじゃないか。
乱れた着物姿の飛鳥は、さぞかし色っぽいのだろう。


――べちっ!


「不埒な事ばかり考えてないで、シャワー浴びて、すっきりして、着替えて、早くリビングに出てきてください、エッチな山羊さん。ディーテとデスさんも待っているんだから。」
「……何故にアイツ等が?」


思い切り加減せずに叩かれた額を擦り、恨めしげに飛鳥を見遣るが、彼女は知らぬ振りをして背を向けてしまった。
せっせと動き回り、クローゼットの中から俺の服と下着をベッドの上へと放り投げていく。
何故か金色のボクサーパンツ(飛鳥が勝負下着だとか何とか言って勝手に買ってもの)を用意され、戸惑いながらソレを摘む俺。


「折角、おせちを作ったんだもの。二人だけで食べたんじゃ勿体ない。美味しい日本酒も用意しているから、皆で飲んで食べた方が美味しいでしょ。あ、シュラもお着物が良かった?」
「いや、それは……。」
「じゃ、早くお願いね。待ってるから。」


――ぱたんっ。


嵐のように去っていった飛鳥。
暫くボーッとドアを眺めていたが、いつまでもグダグダとしていては、本気で飛鳥が怒り出しかねん。
渋々ベッドから出て、身支度を整え、リビングへ向かった。


「よぉ。新年から朝寝坊とはイイ御身分で。」
「お邪魔しているよ、シュラ。あぁ、そう機嫌の悪い顔をするな。ちゃんと手土産も持ってきたんだから。」


ムスッとした表情で近寄る俺に向かって、ズズッとテーブルの上の瓶を押し遣るアフロディーテ。
飛鳥の言っていた日本酒とは、この事か。
なかなか手に入らない希少な酒だと講釈を垂れるアフロディーテを傍目に瓶を手に取った。
蓋は既に開いている。


「朝から飲んでるヤツの方が、余程、良い身分だと思うがな。」
「日本の正月ってのは、朝から飲むモンだろ。飲んで、飲んで、飲んだくれ〜、ってな。ケケケッ。」


ニヤニヤしながらふんぞり返る蟹は、もう既に出来上がっている様子。
呆れるアフロディーテが苦笑いを浮かべて差し出してくれた杯(サカズキ)を受け取り、俺も一気に煽った。
あぁ、確かに美味い、これは美味い。
杯を重ねてしまうのも良く分かる。


「はいは〜い。おせちですよ〜。飲んでばかりいないで、こちらもどうぞ〜。」
「わぁ、これは綺麗だね。」
「凄ぇじゃねぇか。気合い入ってンなぁ。」
「……美味そうだな。」


チビチビ(と言いつつ豪快に)杯を傾けながら、飛鳥の作ったおせちを皆で摘む。
初めて味わうものばかりだったが、豪奢な見た目を裏切らない豪華な味覚に舌鼓を打ち、次々と進んでいく皆の箸。


「私のお着物も素敵でしょ、綺麗でしょ。沙織さんが選んでくれたの。」
「あぁ、とても綺麗だね。」
「自分で素敵とか言ってンじゃねぇよ、正月から。」
「……だから早く味わいたいと言っただろうに。」


一斉に向けられる白い呆れの目。
朝っぱらからムッツリだー、スケベだー、などと散々に貶されながら。
談笑の正月は過ぎていった。



今年も変わらぬハッピーな毎日を



(早く帰れ、お前等。でないと、飛鳥とイチャつけん。)
(フン、夜中まで居座ってあげるよ。エロ山羊に飛鳥を独り占めさせてなるものか。)
(ああ! 栗金団だけなくなってる! シュラでしょ、全部食べちゃったの!)
(オマエ等……。昼前から酔っ払い過ぎだっての……。)



‐end‐





夢主さんは山羊さまが栗金団を食べ尽くす事を見越して、大量に用意しているとは思いますけどねw
あと、黒豆もw

2017.01.01



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