「……なる程。キモノの着用による色気増幅論か。」
「いや、カミュ。そんな難しい話ではないのだが……。」


至って真面目な顔で、俺の些細な疑問、言ってしまえば、どうでも良い問題に首を傾けるカミュ。
ただの雑談程度の話を、そこまで深く考える必要もないだろう。
いや、俺の疑問を広げるだけで、全然、解決に向かわせてくれなかったシュラ達よりは、遙かにマシだが。


「何度か和服姿の飛鳥を見掛けた事があるが、確かに色気は増しているな。露出は全く無くなってはいるが。」
「そこが不思議なのだ。露出が色気ではないとデスマスクも言っていたが、どうしてそうなるのかが分からん。」
「仕草と雰囲気の問題だろう。動きが制限される事で、しとやかさが出るのだ。」


洋服では簡単に出来る動きも、キモノではそうはいかない。
少し手を伸ばすという事すら不自由で難しい。
大きな動作が出来ない、歩く歩幅も狭くなる。
ただそれだけで女性らしい雰囲気が出るというのだ。


「う〜ん……、そういうものなのか?」
「男の色気については良く分からんがな。男はキモノだろうと、それ程には動きに制限もない。多少、着崩れても問題にならないし。きっと見慣れないものには深く興味が湧く、といった程度の事なのだろう。」


分かったような、分からないような。
取り敢えず、男は兎も角として、女のキモノによる色気は、動きの不自由さによる女らしさの増長という事に落ち着いた。
とはいえ、いまいちスッキリとはしないまま宝瓶宮を後にし、教皇宮へ赴く。
簡単な用事を済ませて、直ぐに帰路に着いた俺だが、通過途中の磨羯宮で、シュラに呼び止められた。
しかも、プライベートな部屋のドアから顔だけニョキッと突き出した怪しい状態で。


「な、何だ、シュラ?」
「時間はあるのだろう。寄っていけ。」
「確かに、時間ならあるが……。」


不気味だと思いつつも、断り切れずに部屋へと足を踏み入れた。
刹那、俺は驚きに立ち尽くした。
シュラは和服姿だったのだ。


「アイオリア。お茶の用意が出来たから、一服していってね。」
「っ?!」
「どうだ? 色っぽいだろう、和服の飛鳥は。」


奥からパタパタと小刻みな足音を響かせて現れた飛鳥。
彼女もシュラと同様、キモノに身を包んでいた。
シックなシュラのキモノ姿と違い、飛鳥のキモノは華やかで暖かな色柄をしている。
ふんわりとした黄色の生地に咲く、あの赤い花は……。


「梅の花、春のモチーフね。春の柄のお着物は、見ているだけでも心躍るでしょう?」
「もしかして、俺に見せるために、わざわざ着たのか?」


俺が去った後に磨羯宮へと戻ってきた飛鳥は、キモノの話をしていたとシュラから聞いて、こうして着付けをしたらしかった。
俺に見せるためだけだとしたら、随分な面倒を掛けてしまった。
キモノというのは、着るだけでも一苦労なのは一目で分かる。


「良いの、良いの。何かキッカケがないと、お着物を着る機会もないんだから。」
「その割には、頻繁に俺に着物を着せたがるじゃないか。」
「私としては、もっともっと着てもらいたいの。シュラはお着物がとっても似合うんだもの。」


呆然としている間に背を押され、席に着くよう促される。
漆塗りの菓子盆の上に緑茶と和菓子を乗せて運んでくる飛鳥の姿を見ていて、なる程、納得した。
制限のある動き、しとやかさ、上品さ、女らしさ。
そこから醸し出されるのが『色気』なのだ。


「良いだろう、あのうなじ。」
「……うなじ?」
「他がガッチリと隠されているからこそ、あの首筋の無防備さが、よりセクシーに見えるんだ。」
「いや、シュラ。それはちょっと違うだろ……。」


まぁ、色気の受け取り方も、感じ方も、人それぞれ。
だが、和服が色っぽいというのは、古今東西の全ての男が共通で得る感覚なのだろうと、緑茶を啜りながら思った。



春の日のおもてなし



(和服が色っぽいからといって、飛鳥にムラムラするなよ。)
(ない、それはない。絶対にない。)
(何故だ? 俺はいつもムラムラするぞ。)
(ただの和服フェチじゃないのか、それは……。)



‐end‐





えぇ、山羊さまは和服フェチですw
この後、ニャー君が帰ると直ぐに、夢主さんに襲い掛かると思われますw

2017.04.23



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