17.親子のバレンタイン



本日は執務日和。
窓の外は冬の風で凍える程に寒ぃが、執務室の中は差し込む太陽の光でポカポカに暖けぇ。
眠くなるのをグッと我慢して書類と向き合う平和な午後……、つーのは、俺の希望的妄想でしかない。
実際は、目がシパシパするくれぇ眩しい太陽光を背負ったサガが、二人の白銀聖闘士を怒鳴り付けている真っ最中だった。


あ〜、もう、その辺にしとけよ、反省してるみてぇだし。
思いっ切りヘコんでンじゃねぇか、白銀のガキ共は。
つか、サガ、せめてブラインドを下ろせ。
後光じぇねぇンだし、無駄に神々しく見えてるせいで、より委縮しちまってるぞ、ソイツ等。


――コンコンッ。


ウゼぇ、ダリぃ、サガ煩ぇと、脳内でブツブツ呟きながら、山となった書類を片付けていた時だった。
ココに出入りする文官や女官達とは明らかに違う、小さな弱々しいノックの音が響いた。
サガの怒声に掻き消され、危うく聞き逃しちまいそうな小さな音だ。
次いで、キイイッと軋み音を立て、ドアがゆっくりと開く。
が、開いたドアの向こうに居る筈の人物の姿が見えねぇ。
おや? と思いつつ視線を下方へ下げると……、居た。
ドアノブよりも更に低いところ、ちっけぇアイラがドアノブに手を掛けたまま部屋の中を窺っている。


「アイラか。何しに来た?」
「でちちゃま!」


俺の姿を見留め、タタタッと駆け寄ってくるアイラ。
手には以前、カミュがプレゼントしてくれた、青い小さなバスケットを握り締めていた。
ピクニックに行く時には必ず持って行く、アイラのお気に入りだ。


「でちちゃま。きょうは、なんのひですか?」
「今日? あ〜っと、何だ?」
「バレンタインデーなの。アイラ、でちちゃまに、チョコレートつくってきたの!」


そう言ってパッとしゃがみ込んだアイラは、床に置いたバスケットの中をゴソゴソと漁り、取り出した小さな袋を俺に差し出した。
受け取って、中を見る。
綺麗な丸いトリュフチョコ、明らかに手作りのものが二つ入っていた。
だが、どう考えても、チビッ子が作ったとは思えねぇンだが……。


「でぃてちゃまが、おてつだいしてくれたの。」
「何だ、種明かししちゃったのかい? 折角、黙っていようと思ったのに。」
「アフロディーテ……。」


ドアの陰から姿を現した男は、ニヤニヤとした笑みを、その顔に浮かべていた。
成る程な、コレを作ったのは双魚宮付きの、あの家事スキル百点満点な女官か。
どうりで見事な出来栄えなワケだ。
て事は、アフロディーテの役目は、作製場所と食材の提供、アイラの見守り、そして、アイラをココまで連れて来るって事だけだな
それが手伝いとは、とても言えねぇが、まぁ良い。


「アイラ、チョコを、おててでコロコロしたの。キレーにまるめたの。」
「おー、凄ぇな。こんな見事な丸に作れるなンて、流石は俺の娘。」
「あと、おさとうもフリフリしたの。」
「あぁ、上に掛かってる粉砂糖な。満遍なく振り掛かってて上手いじゃねぇか、流石は俺の娘。」


頭を撫でてやると、アイラは嬉しそうにキャッキャと声を上げた。
親バカ全開だが、気にするこたぁねぇ。
バレンタインに可愛い愛娘から手作りチョコを貰えるってンだから、パパ冥利に尽きるってモンだ。


……と、不意に感じた鋭い視線。
顔を上げると、目を尖らせてコチラを見ているサガと目が合った。
白銀のヤツ等の姿は、既にない。


「ズルいぞ、デスマスク。何故、お前だけ……。」
「いやいや、俺、アイラのパパだし。貰って当然だろ。」
「しゃがたまも、チョコほしかったの?」
「う……。そ、それは……。」


アイラはトコトコとサガに近付いていくと、申し訳なさそうに眉を下げて、ヤツを見上げた。
その表情に怯むサガ。
そんなサガに抱っこをせがむと、アイラは「チョコのかわり!」と言って、サガの頭を撫で撫でし始めた。
途端にサガの目尻が下がり、俺に嫉妬していた事も忘れ、ここぞとばかりにアイラに頬擦りをする。


「あれが教皇補佐とはね……。」
「もう三十超えてンだぜ、アイツ。嫁が来ねぇのも頷けるな。」


アイラを猫可愛がりするサガの、威厳もクソもねぇ姿。
それを眺める俺とアフロディーテは、ひたすら呆れ返るばかりだ。



‐end‐





一日遅れのバレンタインです、すみません(汗)
蟹娘ちゃんのチョコ作りは、パパン・ママン・お魚さまに二個ずつ、そして、山羊さまに十個作ったところで、力尽きたと思われます(苦笑)
本当は黄金全員分を作る予定だったんですけどね、コロコロするもの大変なんですw

2019.02.15



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