16.好きの順番



『恋』ってのは不思議なモンで、惚れて好きで愛した相手と、その関係性が変わった途端、つまりは『恋人』から『夫婦』に変わっちまうと、あっという間に『恋』なンて気持ちがどっかに吹っ飛んじまう、ってのは良くある話で。
それが、更に子供が出来て、大事なモンが増えるに伴って、『恋』なンて言葉自体が頭ン中から消え失せていく、ってのも良くある話。
「恋? そんなものよりも家族が大事だ。」っつーのが、世間一般の常識ではある、切ねぇ話だがな。


で、俺はというと、妻も子もいるが、ラッキーな事に、そンな世間の常識に囚われちゃいなかった。
ココが一般常識の通用しねぇ特殊な場所ってのを差し引いても、周りのヤツ等の気遣いが中々のモンで、お陰で俺達の関係を『恋人のような夫婦』って状態にしてくれている。
ま、ぶっちゃけ言うと、ヤツ等のは『気遣い』なンて素晴らしいモンじゃなく、『アイラと遊びたい・戯れたい』という自分勝手な欲求なンだがな。
兎に角、理由は何にせよ、皆がアイラを預かってくれるお陰で、俺とアイリーンはデートも出来るし、二人だけで外食にも行けるし、時には外泊まで出来る。
それは何よりも有難てぇ事だ。


「でちちゃまは、アイラのこと、すき?」
「当たり前の事を聞くな。好きに決まってンだろ。」


執務を終えて帰宅した夕方、リビングのソファーで寛いでいた時の事。
ヨジヨジと俺の膝によじ登ってきたアイラが、クリンとした目を真ん丸に見開いて、俺を見上げてきた。


「じゃあ、なんばんめに、すき?」
「何番目?」
「そう。アイラは、でちちゃまのなかで、なんばんめなの?」


おー、そうかそうか。
これが噂の『お子ちゃまあるある』だな。
好きな人に順番を付けるっつーヤツだ。
一番目に好きなのがAクンで〜、二番目に好きなのがBクンで〜、みてぇな。


「悪ぃな、アイラ。俺の中でオマエは二番目だ。」
「アイラ、にばんなの?」
「おう。一番はアイリーン。オマエのママな。」


ま、本当のトコは、どっちも一番なンだが、敢えて順番を付けるとしたら、アイリーンが一番、アイラが二番になる。
俺がアイリーンを愛してるからこそ、今、ココにアイラが居るワケで。
俺とアイリーンとアイラっつー家族の形があるのも、アイリーンが居てこそのもの。
俺にとってアイツは、『妻』である前に『恋人』なンでね。


「でちちゃまは、あやまることないの。」
「ほう、何でだ?」
「だって、アイラのいちばんも、でちちゃまじゃないんだもの。」


あー、そうかい、そうかい。
どうせアレだろ、一番はシュラだろ。
聞かなくても分かってンだよ、既に耳タコだからな。


「アイラのいちばんだいすきは、ずうぅぅぅっと、ちゅらたまなの。でちちゃまは、にばんめ。りあにったまが、さんばんめなの。」
「じゃ、四番目は誰よ?」
「むったまと、ばらんたまと、しゃがたまと、かのんたまと、ちゃかたまと、どーこたまと、みろちゃまと、かむたまと、でぃてちゃまと、しおんしゃま。」


……ん?
気のせいか、何か一人足りねぇような?
本来、真っ先に四番目として名前が挙がってもおかしくねぇヤツが抜けてるような、居ないような、そンな気がするような、しねぇような……。


「なぁ、アイラ。アイオロスは?」
「ろすにったまは、いっちばんさいごなの! きのうも、アイラのアイス、かってによこからたべたの! ほっぺもプニプニするの! だから、きらいなの!」
「流石はアイオロス。アイラが嫌がる事、ピンポイントでやりやがるよな。ま、アイラの可愛さに我慢出来ず、思わず手が出ちまうンだろうけど……。」


ま、何にせよ、俺が最後じゃなくて良かったわ。
アイオロスには申し訳ねぇが、暫くこのまま、いや、このまま一生、アイラの一番最後をキープしていてもらいてぇ。
ココに居るのは、皆してアイラの一言一句に一喜一憂するヤツ等ばかり。
アンタがラストをキープしといてくれたら、円満な均衡が保てるんだからな。



‐end‐





「じゃ、嬢ちゃんは?」と聞いたら、「しゃおりたまは、とくべつ!」と答える、良く出来た蟹娘ちゃんです。
沙織さんは、神様なので特別なのです。
元女官のママの教育が、しっかり行き届いておりますw

2018.09.24



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