腹黒彼氏と困惑彼女D



大事な話があるから来て欲しいとの伝言を受けて、私はパンドラ様のお部屋へと向かった。
大事な話って一体、何だろう?
またいつものように地上へのお供だろうか?
でも、それを大事な話と言うには大げさ過ぎる気もするし……。


呼び出された意味が、いまいち良く分からなくて、疑問に思いながら訪ねたパンドラ様のお部屋。
一歩、中に入った瞬間、視界に映った人の姿に、私はあっと声を上げて驚いた。
そこに何故かミーノス様がいたのだから。


「ミーノス様、どうしてココに?」
「パンドラ様に呼び出されたのです。もしかしてアルクスもですか?」
「はい。何でも大事な話があるとかで……。」


そこで初めて、二人揃って呼び出された事を知り、顔と顔を見合わせる私達。
程なくして奥の部屋からパンドラ様が姿を現し、慌てて姿勢を正した。
衣擦れの音を響かせて歩く黒いドレスのパンドラ様は、今日も目が眩む程にお美しい。


「わざわざすまない、二人共。」
「いえ、お気になさらず。元々、然して忙しくもなかったのですから。」


ミーノス様ったら、またそのようにシレッと嘘を吐いて!
先程、デスクの上に書類が山積みになっていたのを見ましたよ、私!


「早速ですまないが、本題に入る。最近、聖域と共同で対処する任務などが増え、それに伴って人や書類の行き来も多くなった。つまりは必然的に処理する仕事の数も増えるという事。それらの伝達や疎通を円滑に進めるために、それぞれから一人ずつ職員を交換して派遣してはどうかと協議され、どちらにも異論なく決定となった。」
「それは良い事です。聖域に我等の仲間が駐留していれば、物事がスムーズに運びますでしょうから。」


ニッコリと微笑み、ミーノス様が相槌を打つ。
こういうところは本当に調子が良いというか、何というか。
でも、パンドラ様は、どうして私達だけを呼んで、このような話をされるのだろう?


「それでな。実はアテナからの要望で、聖域に派遣となる職員には、是非、アルクスを……。」
「えっ、私ですか?!」
「……はい?」


何が、どうして、どうなって、アテナが私を?
そう言えば、以前に地上でのパーティーの席で、一度だけお目に掛かった事はあったけれど。
確か、その時もパンドラ様のお供で地上に行ったんだったわ。
珍しくミーノス様が一緒ではなかった時だ。


チラと隣に座るミーノス様に視線を向ける。
彼は変わらず口元に薄く笑みを浮かべていて、何ら表情の変化はないように見えるけれど。
私だけが分かる、明らかにピリピリとした雰囲気・怒りの小宇宙みたいなものがビシビシと伝わってきて。
ミーノス様が今にも変な事を言い出しはしないかと、背中に嫌な汗が流れていくのが分かった。


「今はあまり聖域側とイザコザを起こしたくはない。向こうが望むのなら、アルクスを差し出そうと思うのだ。すまぬな、ミーノス。暫く彼女とは離れ離れになってしまうが、我慢してくれ。」
「…………。」


自分の事を冥界の方々以外にも評価された事は嬉しいし、誇らしく思う。
でも、だからと言って、ミーノス様の傍を離れる事なんて出来るだろうか?
いや、絶対に無理、有り得ないわ。
正直、この方は何を仕出かすか分からないのですもの。


「申し訳ありませんが、パンドラ様。アルクスを聖域に遣わす訳には参りません。」
「何故だ、ミーノス?」
「理由ですか? 何故なら、彼女のお腹には私の大切な子が……。」
「何っ?! そうなのか?!」


えええっ?!
こ、この人は、パンドラ様に向かって、何という大それた嘘を!
あまりの事に何も言えず唖然とする私の肩を抱き寄せ、「では、そういう事ですので。」と言い残して、ミーノス様はそそくさと部屋を出る。
私の頭が、やっと正常に回り出した頃には、パンドラ様の部屋の扉は遙か後方にあった。


「な、何という嘘を吐くのですか、ミーノス様! 幾ら何でも、あれは酷過ぎますっ!」
「大きな声を出すのではありません、はしたないですよ。それに、いつ私が嘘を吐いたと言うのです?」


だ、だって、私のお腹にはミーノス様の子供なんて……、まだいないもの。
出来たら良いなとは思うけれど、ちゃんと結婚もしていない事だし、そうなるのは、ずっと先の事だと思っていた。


「確かに、私は『貴女のお腹に子が』とは言いましたが、『子が出来た』などとは一言も言ってません。『子が出来る予定です』と言うつもりではありましたがね。」


そう言って、不敵に口元の笑みを深める。
詭弁というか、嘘も方便というのか、兎に角、この人は手段を選ばないペテン師だ。
こうして、いつもいつもミーノス様の口車に乗せられてしまう。
パンドラ様も、冥界の皆様も、そして、私も。


「まあ、直ぐに事実にしてしまえば良い事ですよ。どうです?」
「ミーノス様……。」
「嫌ですか、アルクス? 私の子を産むのは。」


スッと私の腹部に手を当てて、顔を覗き込むように大きな身体を屈めた彼の、少しだけ自信なさ気な声。
ミーノス様でも不安になる事だってあるのね。
そう思うと、何処となく可愛い人なのだと思えて、私はフルフルと首を左右に振った。


「よろしい。では、行きましょうか。」


上機嫌で私の手を取り、歩き出すミーノス様。
結局は、この子供のようで大人のようで、強引なようで優しい、そんな彼の事が大好きなのだと思った。
この人を一人、ココへ残しては、何処にも行けないと思えるくらいに。



貴女のためなら手段は選びませんよ



‐end‐





もう五年もこのジャンルでドリ夢を書いているくせに、初めて冥界(黄金以外)に手を出してみましたよ。
前からミー様は書き易いと思っていたので、意外にサクサク書けました^^
一度、四月馬鹿でミー様トラップをサイトに仕掛けた時も楽しかったですし、ムウ様は書くの苦手だけど、ミー様はイケル口のようですw
そんな私の冥界本命はラダ様なんですがね。
生真面目セクシーな男が好みなのです(いらん情報w)

2012.11.03



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