刹那、タールの池から、ギャーと甲高い悲鳴が上がった。
時折、こうして上がる悲痛な声、苦悶の悲鳴。
私はポヤンとして、そちらを眺める。


「この声を聞きながらボーッとするなど、逆に気が散って無理じゃないですか?」
「慣れていますもの、平気です。」
「慣れ、ですか……。」


私の言葉を繰り返し、ちょっとだけ考えてから、ミーノス様はクックッと笑みを漏らした。
慣れって怖いですね。
口角を上げたままの口元が、楽しそうに呟く。


「花畑を退屈に思い、亡者を癒しの為に眺める、そんな女性を作り上げてしまうなんて。慣れとは恐ろしいものです。あ、でも、アルクスはアルクスのままでいてくださいね。貴女のような女性は希少ですから。」
「こういう時って、『もっと女性らしくなりなさい。』とか言うのではないのですか?」


言われたところで直す気はありませんけど。
直せるとも思ってないですし。
直せるものなら、今、こうして五の壕に座り込み、苦しむ亡者と仕置きする悪魔を眺めてノホホンとしてなんかいない筈ですもの。


「私も皆に変人と呼ばれていますから、変人仲間がいると心強いのです。私だけではないと思えば、色々と楽しいでしょう。」
「別に仲間がいるからといって楽しくはないです。というか、ミーノス様と一緒にしないでください。」
「どうしてです?」
「変人のレベルが違い過ぎます。」


敵だろうと何だろうと、私には人を縛って楽しむような趣味はない。
精々、地獄の景色を見てボーッとするくらいが関の山。
それだって、ただの慣れでしかない。


「何度も言うようですが、私はSではありません。」
「分かりました。Sではなくて、ドSなんですね。そうですよね。じゃなきゃ、あんな事、出来ませんものね。」
「だから、SでもドSでもありません。私はノーマルです、極普通ですよ。」


どこがですか?
私は深い猜疑と軽い軽蔑の眼差しで、ミーノス様を見遣った。
彼は諦めと困惑の入り混じった溜息を吐き、それから、素早く私の額にデコピンを一発、お見舞いした。
い、痛い……。
痛いです、ミーノス様……。


「少なくとも、地獄を眺め、悲鳴を聞きながらボーッと出来るような精神を、私は持ってません。それでも私をSだと思うのなら、今夜、確認に来ますか?」
「来ますかって、何処にです?」
「私の館ですよ。私がSかどうか、アルクスが身を持って確認すれば良いでしょう。」


そ、それって、もしや誘っていますか?
まさか誘われています、私?
え、でも、散々、私を変人と言っておいて、そんな相手を誘います?


「私はSではないですが、変人ではあるらしいですから、普通じゃないのでしょうね。アルクスのような女性が良いと思うのも、きっと私くらいです。」
「ほ、褒められているのか、貶されているのか……。」
「普通では貶しているのでしょうけど、ほら、私は普通じゃないみたいですから。」


つまりは褒めている、と。
普通じゃない事を、変人だという事を。
変人が変人を好きになるのか。
それとも、変人だからこそ変人に惹かれるのか。
そこのところの確認も含めて、やはり今夜、彼の館に行かなければならないのだろうか。
再び口角に薄い笑みを浮かべたミーノス様の横顔を眺めて、もうボーッとなんてしていられないと思った。



貴方の操り人形にはなりませんからね、絶対!



(ちなみに断るという選択肢は、アルクスにはありません。)
(はい?! それじゃあ誘いじゃなくて、命令じゃないですか!)



‐end‐





三月二十五日は当サイトの誕生日。
そして、我らが緊縛王子(笑)ミーノス様の誕生日です。
ミー様夢は毎年恒例になっていますので、ちょっと趣向を変えようと思ったところ、夢主さんが変人になってしまいました、スミマセン(汗)

2018.03.25



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