「なぁ、鮎香。俺があの主人公でも、やはり海に突き落とすか?」


ちょっとした興味本位。
ふと思い付いただけの問い掛け。
相手が俺なら、鮎香は一体、どうするのだろうと。


「そもそも、シュラが主人公なら、あんな展開にはならないでしょう?」
「確かに。」
「それに相手がシュラなら、迷う余地なんてないわ。初めて会った瞬間から、貴方に惹かれてしまったのだし……。」


アルコールが入ると、鮎香は饒舌になる。
普段は照れて、なかなか言ってくれない事も、こうして微酔いの時ならば、俺の望む言葉への誘導も可能だ。
恋人になる前は、あんなにも慎重だった彼女が、こうまで打ち解けてくれるようになった喜び。
今、このカーペットの上に押し倒しても、鮎香は抵抗せずに身を委ねてくれるだろう。
それが許される、たった一人の男になれた事。
俺は本当に幸運だ。


「惹かれたとは、何処にだ?」
「それは、まぁ、色々と……。」
「色々っていうのは、俺の何だ? 顔か? 性格か?」
「沢山あり過ぎて、挙げたらキリがないわ。」


鮎香の華奢な身体を引き寄せて、俺の上へと座らせる。
逆らわずに足の上へと跨った彼女は、真っ正面から俺を見つめて、首に手を回した。
薄暗い部屋の中、辺りに漂うアルコールの匂い。
身体が密着すれば、途端に広がる淫靡な空気。


「なら、一つずつ順番に挙げていくのは、どうだ? 俺の何処が好きか、それが尽きるまで。」
「そんな……、私だけ?」
「ならば、俺と鮎香で交互に挙げれば良い。」


腰に回していた手を上げて、その艶やかな髪へと滑らせた。
掬い上げた一房は、絡まる事なく指の隙間からサラサラと流れ落ちていく。
微かに指に走るこそばゆさが、絶妙な快感となって身体の奥を擽る心地良さに、俺は目を細めた。


「この髪が好きだ。漆黒の絹糸のように細く滑らかな鮎香の黒髪が。」
「私も。シュラの短い黒髪が好き。硬そうに見えて、触ると意外に柔らかな髪。」
「この狭い額もだ。白い額を見ると、キスしたくなる。」
「私もシュラの額、好きよ。普段は髪に隠れているけれど、その隙間から見える額は男らしく広くて、素敵。」


一つ一つ、その箇所に触れながら、互いの好きな部分を挙げて、褒め称える事を繰り返す。
髪に指を通し、額に唇を押し付け、頬を手の平で包み、耳たぶに歯を立てて。
一つ挙げる毎に、徐々に昂ぶっていく扇情的な空気。
飽きる程に、呆れる程に、延々と互いの好きな部分を列挙していく。
そして、見た目の項目が尽きて、それが互いの性格へとシフトしていった頃、俺の中で膨らんだ情欲の塊は、我慢の限界を迎えようとしていた。


「普段は清楚で照れ屋なのに、ベッドの中では、俺好みの積極的な女に豹変するところ。」
「そ、それは……。シュラが、その方が好きだって言うから……。」
「そうだな。俺が言った事を、実践してくれる努力家なところも好きだ。ほら、二つも挙げたぞ。次は鮎香の番だ。」
「わ、私は……。」


なかなか次の言葉が出てこない鮎香の身体を、ゆっくりと床に押し倒していく。
あと三十秒、それだけ待っても言葉が出ないようなら、その白い首に吸い付くつもりで、彼女の回答を待つ。
俺を見上げる鮎香の目に浮かぶ焦りの色。
自分でも口元がニヤリと弧を描いているのが自覚出来ていた。


「早く答えないと、今までに挙げた俺が好きだと思う部分、全てにキスをするが?」
「そ、それって、ほぼ身体全部じゃないの……。」
「あぁ、そうだな。」


ニヤリ、深まる笑みを止められない。
アルコールに潤んだ鮎香の見開かれた瞳が、真っ直ぐに俺を見上げている。





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