そして、忘れてはいけない人がいる。
今、目の前の廊下を物凄い勢いで駆け寄ってくるのは……。


「鮎香、鮎香っ! 明日、休みだろ? 俺と一緒に市街へ出掛けよう!」
「え? あ、えっと……。」
「デートしようよ。二人でランチして、それから、映画でもショッピングでも、鮎香の行きたいところ、何処でも付き合うよ、俺。」


太陽と形容しても遜色ない明るい笑顔で、いつも話し掛けてくるミロ様。
どうやら、彼は私に好意を持っているらしい。
らしいと言うか、確実に好かれている。
こうして頻繁にデートやディナーのお誘いなどをしてくるところを見ると、間違いなく。


でも、正直、ミロ様の、このちょっと強引な押しの強さ。
あまり得意ではない。
常に圧倒されて、上手く言葉を返せなくなると言うか、返す隙を与えてくれないと言うか。


こんな事を言ってはミロ様に恨まれそうだけれど、私としてはカミュ様の方が好みだったりする。
落ち着いた雰囲気と、少ない会話。
静かな空気の中に大人の色香が混じる、あの雰囲気。
クールでいながらも奥に潜む情熱の気配に、とても心惹かれる。
私のタイプは、そういう印象の人なのだ。


「ミロッ! お前はまた、鮎香を困らせてるのかっ!」
「あ? 何だよ、アイオリア! 別に俺は困らせてなんかない!」
「嘘を吐くな! 明らかに困惑してるだろ!」


やっぱり、彼も来たわね。
ミロ様に絡まれていると、必ずと言って良い程、助けに現れるアイオリア様。
でも、助けに来てくれたという印象はあまり感じない。
何故なら、こうなると必ず煩いまでの言い合い・罵り合いが始まるから。
傍で聞いているだけで、グッタリと疲れてしまう。
こんなことなら、いっそ自力でミロ様のお誘いを断る方が、まだマシなくらいだわ。


「また喧嘩してるのか、あの二人は?」
「あ、アルデバラン様。」
「元気なのは良いが、こうも騒々しいと、傍で聞かされる身としては、うんざりするだろう?」


私は苦笑を浮かべ、コクリと小さく頷いた。
黄金聖闘士であるミロ様とアイオリア様に好意を持たれているのは、勿論、嬉しいし、恐れ多いとも思う。
だけど、だからと言って、どちらか一人を選べと言われても、それは無理というもので。
理由は性格的なものと、私の好みかどうかという事と、そしてもう一つ。


「鮎香、サガが呼んでいたが、大丈夫か? 忙しいようなら、俺が何とか言っておくが。」
「あ、いえ、大丈夫です、シュラ様。直ぐに行きますとお伝えください。」
「そうか。だが、無理はするな。」


私には好きな人がいる。
だから、彼等の好意には応えられそうもない。





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