「で、ミロ様。この棚の並び順、ちゃんと覚えてらっしゃるのですか?」
「いや、全く。」


予想はしていたけれど、そんなにあっさりと認めなくても!
こういう悪戯を仕掛けるなら、せめて事後処理はスムーズに出来るようにしておいてくれれば良いのに。
まぁ、思い立ったが吉日で行動に移すミロ様に、それを期待するだけ無駄なのでしょうけれど。


「どうしてくれるんですか、これ? 元に戻すの、凄く大変ですよ?」
「まぁまぁ。そんなにピリピリしないで。ゆっくり片付けようよ、鮎香。ね?」


私は急いでいるんです!
ミロ様みたいに時間に余裕はないんです!


そう心の中でだけ叫びながら、渋々、資料棚の復元を始める私。
正直、泣いてしまいたい気分だったけれど、そんな時間も惜しくて、グッと堪えてファイルを取り出した。
まずは、このファイルを全部取り出して、それから元通りに片付ける。
でも、これを下ろすだけでも大変な作業だわ、気が遠くなりそう。


「そんなご機嫌斜めにならないでよ。ほら、鮎香は怒った顔より、笑った顔の方が可愛いんだから。」
「笑っている暇はありません。私は忙しいんです。」
「一刀両断だな〜。ま、俺はこうして鮎香と一緒の時間が作れただけでも嬉し――、っつぅ!」


ゴッチンッ!!


不意にミロ様の声が途切れ、それと同時に派手な音が響き渡った。
棚からファイルを取り出していた私は、驚きで手を止め、何事かと横のミロ様を振り返る。
すると、そこに立っていた筈のミロ様は、頭を押さえて蹲り、その背後には暗い人影。
私はポカンと口を開けたまま、シルエットに沿って視線を上へと送った。
そこに居たのは、まるで予期していなかった人で、私は開いた口を更に開いて、呆然とその人を見上げるしかない。


「え、シュラ様?」
「ミロ。何をやってるんだ、お前は。」
「い、痛っつ……。」
「あれ程、鮎香の仕事の邪魔をするなと注意したのに、相変わらずの無反省ぶりだな。子供じゃあるまいし、何度言ったら分かるんだ?」


呆れ三割、苛立ち七割といったところだろうか。
静かで低い声の中に、ゆらりと怒りの色を滲ませて言い放つシュラ様。
その迫力は、同じ黄金聖闘士のミロ様すら怯ませるに十分な威力を持っていて。
彼の返す言葉が、途端に歯切れの悪いものになっていく。


「いや、ほら! ちょっとした冗談って言うか……。ちょっとだけ茶目っ気出しちゃったかなぁ……、なんてさ。ははっ。」
「笑い事ではない。お前のせいで鮎香だけでなく、サガにも迷惑を掛けているんだ。分かっているのか?」
「す、スミマセン……。」
「あの、シュラ様。少し言い過ぎでは?」
「これぐらい強く言わんと、コイツは反省しない。甘やかすな。」
「は、はぁ……。」


言い終わらないうちに、シュラ様は棚のファイルを下ろす作業を手伝い始めた。
真面目な方だわ。
そして、やはり優しい人だと改めて思う。
せっせとファイルを下ろす彼の姿に見惚れそうになった自分に気付き、私はハッとして同じ作業に戻った。





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