05.不意打ち



静かな教皇宮にカツカツと小さな足音を響かせて、私は一人、明るい廊下を歩いていた。
手にはサガ様から渡されたリスト。
そこに書かれている資料を探しに、比較的新しい書類ばかりが収められている資料室へと向かっていた。


だが、目的の資料室が近付くにつれ、この場所には相応しくないざわめきが聞こえてくる。
もしや、また?
嫌な予感を胸に資料室のドアを開けると、予感は的中していた。


そこには仕事などそっちのけでお喋りを楽しむ数人の女官と、彼女達に囲まれて一緒に笑うミロ様、そして、少し離れた席で資料に目を通しているカミュ様の姿があった。
楽しげに会話を続けるミロ様と対照的に、普段のクールは何処へやら、うんざり顔を隠しきれないままのカミュ様は、少し苛立った様子でページを捲ってはペンを走らせている。
うん、きっと物凄く我慢しているのだろうな。
ギリギリまで耐えて堪えて、最終的に爆発した時が怖いわ。
なんて思いながら、遠目に皆の事を眺めていると、私の存在に気が付いたミロ様が大きく手を振った。


「鮎香っ! 鮎香〜!」
「ミロ様、こんにちは。」


勿論、手を振り返すなんて絶対にしない。
私は女官としての身分をわきまえているつもりだ。
それに、そんな親しげに手なんて振り返そうものなら、ミロ様を取り囲んでいる女官達に後々、何を言われるか、何をされるか分かったものじゃない。
だから、私は失礼にならない程度に軽く会釈をすると、六列程に並べ置かれた棚の向こう側へと、目的の資料を探しに向かった。


「え〜と……。」


この資料は前にも頼まれた事がある。
確か、四列目の棚の上段に置いてあったような記憶があるんだけど、あれは別の資料だったかしら?
何度も色んな資料を持って往復しているから、記憶が混同してきたわ。
いや、あれは先週の事だから、間違いない。
四列目の一番上の段に戻したわ、ハッキリと思い出した。


「いい加減にしないか、お前達! ミロもだ!」
「わっ! ごめん、カミュ! 悪かったって!」


兎に角、まずは四列目の棚から探してみようと、その棚の前へと辿り着いた時だった。
遂に我慢の限界が来たのだろう、カミュ様のピリピリとした怒鳴り声が響いた。
その怒りを直接、受けているのはミロ様のようだが、キャーキャーと騒ぐ女官の子達の声と、ガタンガタンと椅子とテーブルが揺れる音も聞こえてくる。
そして、暫くすると、騒がしかった部屋の中が、嘘のように静まり返った。
どうやら、この部屋には私以外は誰もいなくなったようだ。


「これで落ち着いて探し物が出来るわ。」


静寂に包まれた部屋の中で小さく息を吐く。
サガ様が待っているもの、早く見つけ出して戻らなきゃ。
そして、私は目的の資料探しのために、意識を集中させた。





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