そこで、ふと気付く。
私のお給料日はまだ先の事、次の宮費が支給されてからになる。
その時には、女官雇用手当ても付いているだろうから、その分は少ない宮費からの負担にはならない。


でも、問題が一つ。
私のお給料の額は、他の女官達よりも高いのだ。
宮付き女官は、教皇宮等に勤める一般の事務方女官より高額のお給料を貰っているが、私はその宮付き女官の中でも、特に高いお給料を頂いていた。


それは、あの問題だらけの巨蟹宮で、不平不満も言わずに六年間も勤め上げた実績によるもの。
だけど、いや、だからこそ、その上積み分のお給料は、女官雇用手当てには含まれていない。
つまり、他の女官達より多く頂いていたお給料分は、基本宮費の中のデスマスク様の個人的な受け取り分(つまりは彼のお小遣い)から割いて支払われていた。
このお給料の額は、降格処分にでもならない限り下がる事はない。
例え、異動で勤める宮が変わろうと、雇い主が代わろうと、お給料の額は他の女官達よりも高いまま。


という事は、だ。
シュラ様は女官雇用手当てでは足りない分を、この少ない宮費の中から割いて、私へ支払わなければいけなくなる。
ただでさえギリギリの宮費、そこから私への上積み分のお給料を出そうなんて、そんなの無理だ。
シュラ様は、それを知っていて私を雇ったのだろうか?
ギリギリの生活が更に際どくなってでも私を雇おうと、そう思ったのだろうか?


『俺は運が良かった。』
『アンヌじゃなければ雇おうとは思わなかったし、アンヌならば喜んで雇うと決めた。』
『悪いが、俺はアンヌを手離す気はない。出来れば、ずっと磨羯宮にいて欲しい。』


シュラ様の掛けてくれた言葉が、次々と浮んでは消えていく。
あの熱心な言葉の数々を思えば、何も知らずに私を雇ったとは到底思えない。
少ない宮費を割いてでも、私に磨羯宮へ来て欲しいと思った、そういう事になる。


分からない事を、悶々と考えていても駄目だ。
分からないなら確かめれば良い。
これがシュラ様だけの事なのか、それとも、人によって宮費に差があるものなのかを。


何処へ行くべきか少しだけ考えた末、私は上に向かって十二宮の階段を上り始めた。
少ない宮費の理由として私の拙い頭で思い浮かぶのは、聖戦時に離反した者に対しての減給くらいだった。
でも、それならばデスマスク様に支給されている宮費も減っていなければならない。
だが、彼の宮費は戻ってくる以前と以後を比べても、何ら変わりがなかった。


ならば、他の方はどうなのだろうか。
教皇補佐のサガ様とは比べられない、基本的に宮費の額が違う。
カミュ様はシベリアに駐留していて、こちらに帰ってくる事は稀だ。
シベリアに住んでいるとなれば、遠隔地手当のようなものもあるだろうし、支給されている金額も違っているだろう。
だったら、比べられそうな人は、一人しかいない。


「失礼します、アフロディーテ様。」


私は帳簿や書類が入った箱を抱え、双魚宮まで来ていた。
確か今日はお休みだった筈。
アフロディーテ様、何処にも出掛けてなければ良いのだけど………。





- 2/9 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -