「そうだな……。多分、生き残るつもりがなかったからだろう……。」
「え?」


シュラ様の口から紡がれた言葉に、私は首を傾げるしかなかった。
思っていたのとはまるで違う突拍子もない答えに、正直、どう反応して良いかも分からなくて。
私は、ただ黙って、その言葉の続きを待っているしかなかった。


「死ぬ気だった、というのとは違う。死ぬ気は勿論なかった。出来るだけ長く生き残って、最後まで戦い抜こうと思っていた。聖戦を目前にして、俺は自分の持つ力を如何に発揮するか、そればかりを考えていた。」
「……。」
「だがな、これまでの聖戦の記録からも分かるように、生き残れる確立はゼロに近い。俺の持つ技の性質を考慮すれば、それはより一層だ。デスマスク達と違い、俺は肉弾戦を主にしているからな。この手足が、俺の攻撃の全てだ。」


固唾を呑んで、話を聞いていた私の視界の中、シュラ様が自分の拳をギュッとキツく握った。
その手をジッと見つめる彼と、その横で同じく彼の握り拳を見つめる私。
一瞬の静けさが、長い沈黙のようにも感じられる。


「戦いの事ばかり考えていた俺にとって、彼女は一服の清涼剤だった。一目惚れだったな。友の家に勤め始めたばかりの彼女と、初めて顔を合わせた時、ニコリと微笑んだその笑顔に、一瞬で心を持っていかれた。」
「では、何故、その方に想いを伝えなかったのですか? 聖戦が近いと知っていたのなら、何も言わないまま、それが永遠の別れになってしまう可能性が高いと、十分過ぎる程、分かっていた筈ですよね。」
「そうだな……。だが、仮に彼女が俺の想いに応えてくれたとしても、俺は彼女を残して戦いへと赴かねばならない。そして、二度と戻って来なくなるのだぞ。彼女を守ってやる事が出来なくなると分かっていて、その心を縛るなど、俺には出来なかった。ただ、そこにいて、その笑顔を見せてくれているだけで良かったんだ、あの時は……。」


自分が死ぬ事で、悲しい思いはさせたくない。
そして、死した後も、ずっとその心を自分という存在に縛ってしまうだろう事が辛かった。


そうポツリポツリと呟くように言葉を零していったシュラ様の哀しげな横顔に、胸が酷く締め付けられる。
そんなにも……、そんなにもその女性の事を深く強く想っていたのだ、シュラ様は。
敢えて秘めた想いを胸に抱き続けるシュラ様の事を、その女性はどう思っているのかは分からないけれど。
でも、その彼女がシュラ様の想いを受け取ってくれる事を切に願う自分がいた。
そのために私自身が辛い思いをしたとしても、シュラ様はその女性と幸せになって欲しいと、痛む胸の奥で思った。


「愛してらっしゃるんですね、その方の事を……。」
「あぁ、そうだな。愛してるんだろうな、俺は。」


スッと私の方へ向けた視線に強い光を宿して。
はっきりと言い切ったシュラ様の言葉に、この心が酷く揺れ動き、乱れても。
それでもやはり彼の幸せを最優先に願ってしまう。


今のこのひと時、シュラ様の視線を独占出来ている。
それだけで私は十分に満足だと思った。



→第10話に続く


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