「……じゃあ、コレとコレは、ココに置いてあンだな。」
「はい。あと、書類は纏めて三段目の引き出しですから、忘れないでくださいね。」
「おう、助かったぜ。済まなかったな、アンヌ。」


私はフルフルと首を振った。
ずっと私が管理してきたのだし、必要な事をしっかり引継ぎもしないで磨羯宮へと異動してしまったのだから仕方ない。
まぁ、ロクに引継ぎする時間も与えないまま、私をココから追い出してくれた張本人が、今、目の前にいるデスマスク様その人なのだけれども。


「もし、また分からない事が出てきたら、直ぐに聞いてくださいね。」
「そうするわ。ヘタに自分で探すとロクな事がねぇ。」


いつものクセで硬い銀髪をガシガシと掻き毟りながら、苦い笑みを零すデスマスク様。
きっと探し出すのにアチコチを引っ掻き回し、結果、見つからないばかりか、探し回った後の残骸を元の状態に戻すのに苦労したのだろう。
キッチリ屋さんで綺麗好きのデスマスク様だ、ブツブツと文句を言いながらも必死で片付ける姿が容易に想像出来て、笑いが込み上げてくる。
これがシュラ様なら、探し物の残骸がそのまま山となり、積もり積もってあの悲惨な部屋が作り上げられていくのだろうけれど。


「ご苦労様、アンヌ。もう一杯、紅茶を淹れようか?」
「すみません、アフロディーテ様。お気を遣わせてしまって。」


その魅惑的な美しい顔に柔らかな微笑を浮かべて、アフロディーテ様が手渡してくれるアイスティーの注がれたグラス。
物腰も柔らかなアフロディーテ様は、そこにいるだけで目の保養と言うか、癒しになると言うか。
デスマスク様といい、シュラ様といい、マフィアと間違われても何らおかしくない強面の方々ばかり見ているせいか、彼の優雅さと美しさは一種の安らぎにすら思える。


「そういえば、部屋の模様替えは上手くいったのかな?」
「あ、はい。昨日はありがとうございました。ホンの少しだけ手を加えた程度ですが、シュラ様にも気に入って頂けたようです。でも、本格的な模様替えは、必要なものを揃えてからにしようと思っていますが。」
「だから言っただろう。シュラは喜ぶだろうって。」
「そうですね……。本当にそうでした。」


磨羯宮に勤め出して、まだ数日の私だ。
当然、シュラ様については分からない事、知らない事が沢山ある。
長年の付き合いで親友同士のお二人の話や助言は、今の私にとっては、とても有難いもの。


「あの、少しお聞きしたい事が……。」
「あー、なンだよ?」
「シュラの事かい? 私達で答えられる事なら、何でも教えて上げるよ。」


幾分、面倒臭げなデスマスク様と、何処か楽しんでいる様子のアフロディーテ様を前に、私は僅かながら背筋を伸ばす。
二人の瞳が興味津々な様子でコチラを見ているような気がするのは、気がするだけだと思いたい。
私は目の前に座るお二人に交互に視線を走らせた後、僅かに俯いた視線の先にあるアイスティーのグラスを見つめながら言葉を紡いだ。





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