「では、シュラ様は私を引き止めておく気はないのですね。」
「ん?」
「そういう事ではないのですか? こんな風に私を周りに見せびらかしているのですから。」


ちょっとキツい言い方だったかもしれない。
それでも、その言葉を喉の奥に飲み込む事が出来なかった。
デスマスク様が私を傍に留めて置く為に、そんなにも人目から避けようとしていたというのなら、今日のシュラ様の行為は、その真逆。
それは、私が誰かのお眼鏡にかない磨羯宮から出て行く事になっても構わないと、そう言っているのと同義だ。


でも、女官どころか従者すらずっと雇っていなかったシュラ様だから、ちょっと良い気分になって思わず見せびらかしたい衝動に駆られたのかもしれない、とも考えられるけど。
それでも、シュラ様であればそんな短慮による浅はかな行動などしないと思うし、そんな意味のない行動はシュラ様らしくない。


だからこそ、私はとても淋しく感じてしまった。
いつ出て行っても良いと、その程度の存在としか思われてない事に。
たかが女官でありながら、度を越えた事を言っているとは思う。
でも、私にそんな気持ちを抱かせたシュラ様も悪い。
だから、少しくらいチクリと言ったって、文句は言えないと思うのよね。


「それは違うぞ、アンヌ。」
「……え?」
「俺はデスマスクのやり方では返って逆効果だと思っている。いや、逆効果だと知っている、と言った方が当たっているな。」
「??」


それまで、ずっと俯いたままでいた私は、自分の手元にあった食べ掛けのベーグルサンドばかり眺めていた。
だが、予想外のシュラ様からの返答に、パッと顔を上げる。
すると、強く強く、私の心の中まで見透かしそうな鋭さで、ジッと私を見つめていたシュラ様と目が合った。
再び、私の落ち着きのない心臓が早鐘を打ち出すのが分かる。


「人目に触れないようにしたい気は分かるが、それでは余計に気になるのが人間の心理だ。より一層、興味をそそられる。必要以上に隠されるものは、見たくなる、欲しくなる。そう感じるのは、経験上、俺にも良く分かっている。」
「はぁ……。」
「逆に、こうして人目に晒してしまえば、諦めも付くというものだ。他の者に奪われたくなければ、ハッキリと思い知らせれば良い。そうすれば、皆、甘んじて事実を受け入れるだろうからな。」


つまりそれは、私が磨羯宮の女官としてシュラ様に仕えているのだから誰も手を出すなと、他の人達に知らしめる。
そういう事を言っているのだろうか?
ところどころ理解し難い部分もあったけど、要約するとそういう意味よね。
シュラ様が、私をずっと傍に置きたいと思ってくださっている、と……。


「何だ? 喜んではくれないのか?」
「あ、いえ、あの……。」
「悪いが、俺はアンヌを手離す気はない。出来れば、ずっと磨羯宮にいて欲しい。」
「ありがとう……、ございま、す……。」


顔が火照る。
きっと今の私の顔は、真っ赤に染まっているに違いない。
言葉だけ聞いていれば、愛の告白を受けているような錯覚に陥りそうで、私はもう一度、瞼を伏せて視線を落とした。


シュラ様はいつもこうして女の子達に誤解させるのだわ、きっと……。
この前も、まるで告白みたいな褒め言葉を仰ってくださったし、本人はやっぱり無自覚なのよね。
不規則に鳴る心音に邪魔されながら、私は小さな溜息を吐いた。



→第7話に続く


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