カシャンと、フォークをお皿に置いた音が響いた。
驚いて顔を上げると、デスマスク様が腕を頭上に伸ばし、「うあぁ。」と呻き声のような音を、喉の奥から発していた。


「ったく……。ワリに合わねぇ任務だけどよ、俺が行かなきゃなンねぇって思ってたンだがなぁ。」
「身体を万全の状態に保つのも、俺達の仕事の一つ。早く怪我を治す事だな。でないと、他のヤツ等の割り当てが、更に増える。」
「わぁったよ。ま、こンぐらいなら、数日、小宇宙での治療を続けりゃ、直ぐに良くなンだろ。」


痛い筈の右手をブンブンと振って、片眉を上げるデスマスク様。
小さく溜息を零すシュラ様。
私はというと、食事中に伸びをしたり、フォークを投げ置いたりと、デスマスク様のお行儀の悪さを注意したい気持ちでいっぱいだったが、今日だけは我慢して上げようと、グッと言葉を飲み込んだ。


「恋人さんがガックリくるかもしれませんね。」
「は? どういう事だ?」


死に別れになるかもしれないだなんて脅しも同然に言われて、日本から聖域へと連れ戻された。
だが、蓋を開けてみれば、当の本人は、その任務には行かない事になってしまったのだから、騙されたと思ってもおかしくはない。


「ま、騙された云々は別として、ガックリくる事はねぇンじゃねぇか。こンなヒドい怪我したまま、そンな危ねぇ任務に行くのかと、心配で気を揉ンでたからな。」
「そうですか。丸く治まったのなら良かったです。」


もう金輪際、恋人さんを怒らせるような事はしないでくださいね。
そう告げると、デスマスク様は苦々しげにチッと舌打ちをした。
シュラ様は、自分には無関係な事だからなのか、黙々と残りの料理を平らげている。
まるで人の話など聞いていない様子に見えたが、実際のところは、何も聞いていない訳ではなかった。


「俺達は明日、出立する。」
「えっ?! あ、明日ですか?!」
「随分と急だな、オイ。」
「急ではない。そもそもは、お前の戻りを待っていたから、日が開いてしまったに過ぎない。あんな事があって、お前も戻ってきた上、相棒がアフロディーテに変わったのだからな。これ以上、出立を遅らせる理由は、何処にもないだろう。」


言われてみれば、確かにそうだ。
理由もなしに任務を遅らせて、ゴルゴンと思われる神話クラスの化物をのさばらせておく訳にはいかない。
時が経てば経つ程、失った力を取り戻す可能性は大きくなるのだから。


「そう長くは掛からんだろう。今度は確実にヤツを消滅させ、脅威は跡形もなく取り除いて戻ってくる。心配するな。」
「…………。」


隣の席から伸びてきた長い腕が、目の前に影を作ったと思った刹那、髪をクシャリと掻き回されていた。
だが、私の心は複雑に揺れていた。
心配するなと言われたところで、笑って過ごせる者がいるとでも思っているのだろうか、この人は。
「心配するな。」ではなく、「無事を祈っていて欲しい。」と言われた方が、どんなにか良いのに。


「どうした?」
「どうしたではありません。私にも、心配ぐらいさせてください。」
「……アンヌ?」
「お。どうやらお怒りなのは、俺の女より、オマエの女のようだなぁ、シュラ。」


デスマスク様が、シタリ顔でニヤリと笑う。
私は少しだけ不貞腐れたまま、無言で立ち上がり、テーブルのお皿をキッチンへと運んだ。





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