「で、特に俺が何かした訳でもないのに、このような土産など持って来るとは、どういう風の吹き回しだ?」
「あ〜……。」


流石はシュラ様、ただの食いしん坊ではない。
バリバリとお煎餅を貪りつつも、鋭い視線をデスマスク様へと向ける。
決して木偶の坊ではないのだ、彼は。


「ま、礼だな、礼。」
「礼だと? お前が、俺に?」
「ンだよ。俺が礼を言ったら悪いか?」


悪くはないですが、あまりに珍しい事なので、雪か、さもなければ、槍でも降りそうです。
などと言ったら、また頭をベシンと叩かれるだろう事は目に見えているので、私はグッと言葉を飲んだ。
だが、シュラ様は正直だ。
目線が明らかに窓の外へ向いている。


「何、見てンだよ?」
「いや、槍でも降ってやしないかと思ってな。」
「降るかよ、ンなモン。」


相手がシュラ様では、流石に手は出ないらしい。
代わりに、苦々しく鳴らされたデスマスク様の舌打ちが、チッと響く。
それを受けて、シュラ様は小さく肩を竦め、それから、「折角だから、一緒に昼飯を食っていけ。」と、誘いの言葉を掛けた。
勿論、私の了承は得ていないが、一人分くらいは何とかなる事も、分かっているのだ。


それから、私は慌てて三人分のパスタを茹でて、ランチのテーブルを、それなりに埋めた。
パスタソースを多めに作っておいて良かった。
足りないなんて事になっていたら、またデスマスク様の御機嫌が悪くなってしまう。


「……まぁ、あれだ。オマエが期限を付けてくれたお陰で、上手い事、アイツを連れ戻せた。そこンとこの礼だな。」
「期限だと?」


食事が半分程まで進んだ頃、突然、デスマスク様がボソリと話し始めた。
何の事やら分からなかった私だったが、そこは長年の付き合いか。
シュラ様には直ぐに、先程の話の続きだと分かったようだった。


「中国での任務の事だ。直ぐにも、オマエと一緒に行かなきゃなンねぇ。しかも、危険度が物凄く高い。五体満足で戻って来れるか分かンねぇっつって、俺と生き別れになって後悔しねぇのかと、詰め寄ったンだ。頑なだったアイツの心も、この一言で折れた。て事で、オマエのお陰だっつー訳だな。」
「呆れた。それでは脅しではないか。」
「そうですよ。それじゃあ脅迫ですよ。恋人さんも騙されたと思っているんじゃないですか?」
「煩ぇよ。結果が良けりゃ、全て良し、ってな。アイツも意固地だから、折れるキッカケが欲しかったンだろう。それが今回、上手くハマったってだけだ。脅しじゃねぇ。」


ああ言えばこう言うの典型ですね。
この人の口車に乗せられて、一体、何人の女性が泣きをみた事か。
今の恋人さんが、デスマスク様に再び愛想を着かす日が、直ぐにも来るのではないか。
そう思うのは、私だけではない筈だ。


「そう言えば、伝え忘れていた。先程、教皇宮で話し合いをした結果、今回の任務は、やはりアフロディーテが俺と共に行く事になった。」
「そりゃ、どういう事だ?」
「お前、昨日、怪我をしただろう。右手の人差し指、バキバキに折れているんじゃないのか? ま、頑張った御褒美といったところだな。」
「あ、そー。ンじゃ、俺は休んでイイってか。」
「そもそも昨日、任務になんぞ行かんと、お前が宣言してただろうが。」


デスマスク様の恋人さんではないが、頑固なアフロディーテ様も折れたらしい。
昨日の皆の闘い振りを見て、いや、小宇宙で感じ取っていて。
今度の任務は、鬼神相手に何も出来なかった分、やはり当初、白羽の矢が立った自分が行くべきだろうと、自ら手を挙げたらしかった。





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