目覚めた歩美さんの身の回りを整え、必要としている様々な事柄や要望を聞くと、私は彼女のいる部屋から退室した。
歩美さんは暫く、教皇宮のゲストルームで過ごす事になった。
精神的な負担が大きかった事もあり、ドクターが頻繁に様子を見に行けるようにとの配慮だ。
元からの足の怪我も完治していないのだから、ある程度、身体の調子が良くなるまでは、最良の環境で療養をさせようとの、アイオロス様の判断だった。


時計を見る。
時刻は既に十一時を過ぎていた。
教皇宮の入口から外を見れば、燦々と降り注ぐ太陽が瞳に眩しい。
これは駄目だわ。
とても一人では戻れない。
外に出たが最後、日光に当てられて、以前のようにバッタリと倒れてしまうだろう。


シュラ様かデスマスク様が、まだココに残っていないかと黄金聖闘士の執務室を覗いたが、残念ながら、どちらの姿もなかった。
どうしようかと、途方に暮れる私。
このままでは磨羯宮に帰れない。


「どうした、アンヌ?」
「アイオロス様、それが……。」


事情を説明すると、少し待っていろと言って、黙り込んでしまった。
直ぐに、小宇宙で誰かに話し掛けているのだと気付く。
相手は多分、シュラ様だろう。


「……駄目だな、返事がない。」
「シュラ様ですか?」
「あぁ。多分、疲れて寝てしまったんだろうな。アイツは昔から、眠ってしまうと何をしても起きないんだ。」
「昔からなのですね……。」


思わず呆れた声が出る。
十二宮を守る聖闘士として、こんなにも深い眠りに陥ってしまうというのは、どうなのだろう。


「仕方ない。俺がアンヌを連れていこう。」
「え、ええっ?! でも、それは申し訳ないです。アイオロス様のお手をお借りするなど……。」
「構わないさ。どうせ自宮に戻るところだ。磨羯宮は通り道だからね。俺がアンヌを姫抱っこなんてしたら、シュラがプリプリ怒るだろうから、出来れば迎えに来て欲しかったんだけど。ま、起きないアイツが悪いって事だな。」


それなりに毒の含まれた言葉でありながら、こうもニコニコと爽やかな笑顔で言われてしまうと、それ程、貶されているような気がしない不思議。
アイオロス様に掛かれば、ムッとした強面のシュラ様の表情も、プリプリと怒っているだなんて可愛い表現になってしまう。
思わずプリプリ怒るシュラ様の姿を想像して、吹き出しそうになった。


「すみません。それでは、お言葉に甘えさせていただきます。」
「じゃ、しっかり掴まっていろよ。」
「は、はい、――って、わわわっ!? は、早い、早い、早いーーー!!」
「はははっ。落ちるなよー。」


な、何でそんなに楽しそうなのですか、アイオロス様っ!
何がそんなに嬉しいんですか、どうして笑っていられるのですかっ!
と、取り敢えず、一旦、止まってくださいー!


「さぁ、着いたぞ。」
「は、はぁ、はぁ、はぁ……。」
「ん? どうした、顔色が悪いな、アンヌ?」


どうした、じゃありません!
誰のせいだと思っているんですか!
走る時は、まず心の準備をしないと、本当に死にそうになりますから!


「そうか、そうか。すまなかった。」
「すまないじゃないです、本当に……。」


すまないと言いながらも、笑みの絶えない顔からは、少しの罪悪感も窺えない。
きっと戦闘に参加出来なかった事で、フラストレーションが溜まりに溜まっていたのだろう、その反動に違いないわ。
私は溜息を吐きながら、人馬宮へと下りていくアイオロス様の後ろ姿を見送った。





- 5/7 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -