「だ、大丈夫ですかっ?!」
「あぁ、すまない、アンヌ。少し派手に飛ばされただけだよ。心配はいらない。」


慌てて駆け寄った私だったが、それを手で制して、直ぐに立ち上がるアイオロス様。
身に纏う白い法衣の埃を手で払い落としながら、顔には苦い笑みを浮かべている。
同じく直ぐに立ち上がったアイオリア様も、大丈夫だというように、こちらに向かって深く頷いてみせた。


「予想外に手強いようですね。」
「あぁ。まさか、ここまでとは思わなかった。」
「あの……、どういう事ですか?」


彼等には弾き返された原因が分かっているようだったが、端で見ていた私には何が起こったのか、まるで分からない状況。
不躾とは思いながらも、何事があったのかと尋ねるしかない。
ちゃんと歩美さんの目が覚めるのか心配でならなかった私には、言葉を自制する余裕がなかった。


「彼女が目覚めない。それはつまり心を閉ざしている、蓋をしている状況にあるという事です。」
「蓋、ですか?」
「人は殴られそうになると、手や腕で自分の顔や身体をガードするだろう。それと同じ事が、心にも起きているんだ。自分自身の心を守るために、強固なガードを作り、覆っている状態。今、俺達は、それに阻まれたという訳さ。」


ムウ様とアイオロス様が交互に説明をしてくれる、その背後で、アイオリア様は未だ黙ったまま、眠り続ける歩美さんをジッと見つめていた。
彼等の説明によると、歩美さんは自分の内に潜んでいた鬼神の精神体に心を侵食されぬよう、無意識に防御壁を作り上げていた可能性が高いという。


「無意識という事は、歩美さん自身は気付いていなかったのでしょうか?」
「気付いていたなら、何らかのアクションを起こしていたでしょう。我々には無理だとしても、貴女には何事かの相談くらいはあったかもしれません。しかし、その素振りもなかった。」
「確かに、そうですね。そのような事は、何も……。」
「ですから、何か嫌な感じを覚えていたとしても、慣れない生活のせいだと自分に言い聞かせていたのだろうと思います。しかし、心というのは敏感ですから、覚えた違和感に対して、無意識の防御壁を張った。それが今、私達の呼び掛けをも阻んでいるのです。」


ムウ様が、その言葉を口にした瞬間、背後のアイオリア様がグッと唇を噛むのが見えた。
ずっと傍にいながら、歩美さんの中に潜む化物の気配に気付いて上げられなかった事を、深く悔やんでいるのだろう。
だが、巧みに気配を消し、歩美さんの体内に潜伏していた鬼神の精神体の存在を感知するのは、例え黄金聖闘士だとしても至難の業だ。
そういった不可思議なものの存在に敏感な反応が出来るシャカ様かデスマスク様でなければ、到底、無理だっただろうと、昨夜、カミュ様も言っていたではないか。
しかも、この鬼神は、そんな二人の宮に挟まれた獅子宮にいながら、どちらにも気付かれる事なく、巧みに気配を殺していた巧者だ。
それなのに、アイオリア様は自分を強く責め、苦悩している。
真面目な彼らしいと言えば、そうなのかもしれないけれど、それ以上に、歩美さんに対する想いの深さ、後悔の念を強く感じているのだと、私には思える。


「アイオリアの小宇宙ですら拒まれるならば、ここから先に進むには、どうするか……。そうだな、彼女の心に働きかけられるような媒介があれば、というところか。」
「媒介……。」


アイオリア様達の力を、防御壁を乗り越えて歩美さんの心に届かせるために必要なもの。
それを聞いて、何かが心に引っ掛かったけれど……。


あ、そうだ、そうだわ。
『あれ』があるじゃないの。
思い出した瞬間、私は再び、アイオリア様に駆け寄っていた。





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