その衝撃は、昨夜のものとは比べ物にならない程に大きく、未だ多くの住人が眠りの世界にいるだろう朝の静寂の中、ビリビリと空気を震わせて、この広い聖域の敷地内を伝播していった。
流石に、これには聖域内に居る全ての聖闘士と兵士達が気付いただろう。
そして、一度は聖闘士になる事を目指した事のある人――、小宇宙の心得を持つ一部の一般人でさえも、深い眠りの世界から呼び覚まされたであろう。
そのくらいに鬼神の発した衝撃は凄まじく、かつ禍々しいものだった。


勿論、衝撃の大きさの分だけ、住人達の動揺も大きいもの。
アイオリア様を始めとする黄金聖闘士様達が、衝撃の発せられた地点へと向かって飛び出していく中、いち早く教皇宮へと駆け付けた白銀・青銅達へと指示を与えていくサガ様。
アイオロス様は夜勤警護に当たっていた兵士を呼び寄せ、緊急時に決められている配置を取るよう命令を下す。
更には、一般住民達が被害に遭わぬよう、外出禁止令を発令し、それぞれの居住区に数人ずつの白銀・青銅聖闘士を向かわせて警護に当たるよう指示を重ねていく。
それがホンの数秒、数十秒の内に、次々と進んでいくのだ。
その目まぐるしいまでの展開の早さに、私はただ呆然と見ているしかない。


「アイオリアの他に、先に向かったのは、誰だ?」
「カミュとアルデバランだ。」


鬼神の動きを抑え込むための凍気を放てる唯一の聖闘士であるカミュ様。
異変を知って駆け付けてくるかもしれない他の聖闘士や兵士達が迂闊に巻き込まれぬよう、周囲を警戒するためのアルデバラン様。
考える余裕なんて一秒すらなかった、あの刹那の瞬間に、最適な自分の役割を判断して、アイオリア様と共に飛び出していったお二人に、ただただ感服するばかりだ。
改めて黄金聖闘士の凄さを理解する私。


「俺も直ぐに現場に向かう。オマエも来るだろ、シュラ?」
「あぁ。」


サガ様のサポートに回り、細かな指示を兵士達や伝令達に与えていたデスマスク様が、こちらを見返り、シュラ様に問う。
彼はコクリと頷いた後、チラと私の方を見遣った。
それは「お前も来る気か?」との確認の視線。


「……行きます。」
「昨夜よりも、危険度は遙かに高いぞ?」


それでも行くのかと、念を押してくるシュラ様に対し、私は視線を逸らさずに深くしっかりと頷いた。
今更、後には退けない、退きたくはない。
歩美さんを救うために、私は何の力にもなれないだろうけれども、祈る事は出来る、願う事は出来る。
彼女のために出来る事は、戦闘以外にも、きっと沢山ある筈。


「分かっているとは思うが、くれぐれも無茶はするな、アンヌ。」
「……はい。」
「ムウ。悪いが、またアンヌの事を頼む。」
「分かりました。アンヌ、現場に着いたら、私の傍から離れないように。良いですね。」


コクリとゆっくり、それでいて力強く頷いた私に、シュラ様は不安を隠し切れない溜息を小さく零した。
彼の気持ちは分かる。
だけど、今は守られているだけでは駄目。
私には私の出来る事を、この騒動の顛末を見届ける事を成し遂げなければならないと、そう強く思う。
全ては歩美さんと、アイオリア様、このお二人のために……。





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