ガタガタと皆が揃って腰を上げた時だった。
突然、ピタリと動きを止めたカミュ様が、その端正な顔を強く顰めた。


「どうかしたのか、カミュ?」
「あぁ。すまない、アイオリア。彼女の捜索を手伝えなくなった。」
「何かあったのか?」
「アイオロスに呼ばれてな。手を貸して欲しいと。直ぐに教皇宮へ向かわなければ。」
「そう、か……。」


もう一度、すまないと小さく零し、カミュ様は足早に宝瓶宮を出て行ってしまった。
残された私達は、少しの間、呆然とした後、宮主のいなくなった部屋を出た。
他の宮よりも幾分か寒さを感じさせる宝瓶宮に、無機質に響く三人分の足音。
コツコツ、コツコツと。


「俺達二人だけでは、少し心許ない、か。アイオリア?」
「…………。」
「誰か他に手伝ってくれる者がいるかもしれん。」


アフロディーテ様は教皇宮で執務中、アイオロス様の目がある以上は抜け出せない。
ミロ様は外地任務、童虎様は五老峰。
シャカ様はアテナ様に付き添い、聖域の外にいる。
デスマスク様は休暇を取得して恋人さんを連れ戻しに行ってしまっているし……。


「アルデバランなら、事情を話せば協力してくれるだろう。」
「ムウも自宮にいるようだが、聖衣の修復中かもしれん。協力してくれるかは微妙だな。」


取り敢えず、声は掛けてみよう。
シュラ様が言った言葉に、アイオリア様はコクリと声もなく、ただ頷いた。


雨の中、再び十二宮の階段を駆ける。
今度は流石におんぶではなかったけれど、傍にアイオリア様がいる分、シュラ様に横抱きにされている状態は恥ずかしかった。
だが、今はそのような事を、どうこう言っている場合ではない。
我慢して彼にしがみ付いている僅かの間に、磨羯宮を通り過ぎ、獅子宮まで戻ってきていた。


「彼女が居なくなったというのは、本当なのだな、アイオリア?」
「あぁ、すまないが、捜索を手伝ってくれるか?」
「勿論です。何か起こってからでは遅い。直ぐにでも開始しましょう。」


移動している間に、小宇宙を使って連絡を取ったのだろう。
辿り着いた獅子宮には、既にアルデバラン様とムウ様の姿があった。
お二人共、とても心配している様子で、表情にもハッキリとそれが表れていた。


「アンヌは、彼女の部屋を確認してくれ。」
「……え?」
「俺が女の部屋を探る訳にはいかんだろう。だが、彼女の持ち物の中に、行きそうな場所のヒントがあるかもしれない。」
「確かに……。」


勝手に部屋の中を探るのは気が引けるけれど、今は緊急事態だもの。
何か手掛かりになりそうなものが出てくるかもしれないなら、躊躇っている場合ではない。


「では、頼んだぞ。」
「三十分おきに、一旦、ココに戻ってくる。何か見つかったら、その時に教えてくれ。」
「分かりました。あの、皆様。どうぞお気を付けて……。」


雨が降り続いている。
足下の状態も悪ければ、視界も悪い。
気が焦って、怪我などせぬように。
そう思って告げた言葉に、シュラ様は私の頭をポンと一つ叩き、他の三人はゆっくりと頷いて、そして、獅子宮から飛び出すように駆け出していった。
瞬きの間に、雨に飲み込まれて消えていく三つの影。


私はプライベートルームの奥へと引き返し、歩美さんの部屋へと入った。
人が一人、通れる程度に開けられたままの窓。
風向きのため、雨が入ってくる事はないが、この天気で窓が開けられているのは、やはり非常に不自然だと感じた。





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