それから私達は雑貨屋さん、本屋さんを巡り、ランチに向かった。
イタリアンレストランでパスタを――、シュラ様はペスカトーレ、私はボンゴレ・ロッソを美味しくいただいた。
買物の最後に、アジア系の食材などをアレコレ置いているショップへ立ち寄り、歩美さんに頼まれたものを揃えて、私達は帰路に着いた。


「重たくはないですか、その荷物?」
「平気だ、心配する事はない。」


シュラ様が引き受けてくれた手提げ袋には、歩美さんから頼まれた瓶物の調味料が沢山入っている。
聖闘士だから重さは大した事がないのだろうけれど、それでも、あれだけの重量があれば、指に袋の持ち手が食い込むだろう。
流石に、その状態は痛いのではないかと思う。


「だから、平気だと言っている。この程度、食い込んでいる内に入らん。」
「でも、ほら。指が赤くなって引っ込んでいます。」


右手から左手に袋を持ち直したシュラ様。
差し出されたその手を見ると、袋の持ち手が食い込んでいた部分が、赤く引っ込んでいた。
私から見れば、酷く痛々しい。
その痛みは、私でも良く分かるもの。
いつも市場でのお買物の帰り道は、手に持ったり、腕や手首に引っ掛けたりしている買物袋がギリギリと食い込んで、地味に痛い思いをしているのだから。
しかも、それは最初こそ大した痛みはないものの、歩いている内に、ジワジワと食い込みが増し、それにつれて痛みも大きくなっていくという、非常に厄介なもの。


「一般人のアンヌとは違う。俺は鍛えているから……。」


そう言って、シュラ様は赤くなっていた指を丸めて、手をギュッと握った。
それをパッと開けば、指の赤みは消え去っており、持ち手が食い込んだ跡も消えてなくなっている。


「え、消えた?」
「これは俺の一番の武器だからな。手と、この指は。他の聖闘士と比べても、手と指の強さなら、圧倒的だと思うぞ。」


そうか聖剣。
この手が、この指が、剣(ツルギ)であり、刃(ヤイバ)なのだ。
ありとあらゆる物を斬り裂く剣。
本人が、この世に斬れぬものはないと、そう豪語するのならば、それは最強の剣であり続け、折れる事も、刃こぼれする事も許されない。
そのためには、誰よりも鍛えて抜いている筈。


「一度で良いから、見てみたいです。」
「ん?」
「シュラ様が、その聖剣を振るっているところを……。」


私の言葉を聞いて、彼は片眉を上げて、大きく肩を竦めた。
そして、小さく溜息。
どうやら、私の願いは、シュラにとっては嬉しくないものらしい。


「俺としては御免こうむりたい。」
「どうしてですか?」
「それはつまり、アンヌがそれを目撃出来る程に近くで、敵と対峙しなければならんという事だろう。そんな危険な状況になって欲しくないというのが、俺の意見だ。」
「あ……。」


そうだ、そうよね。
私が近くにいる時点で、それは聖域内である可能性が高い。
聖域の内部で、そのような事態が起こるとすれば、考え得る可能性は二つ。
内乱、もしくは、アテナ様の結界を越えるか突き破るかして敵が攻め行ってくるかの、どちらか。
出来れば、どちらも考えたくないし、あって欲しくない。


「お前が一生、俺の技を見ないで済むなら、それに越した事はない。そうだろ?」
「そう、ですね……。」


ならば、せめて黄金聖闘士同士による、必殺技もありの模擬戦でも行われないかしら。
そうでもない限り、私には一生、素晴らしい技の数々を繰り出すシュラ様の戦闘姿を、見る機会など得られないだろう。





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