お店を出ると、シュラ様が左手のリングを空に翳した。
とはいっても、雨降りの空の下、実際には傘に遮られて、陽の光を浴びる事は出来ない。
その指のリングも、傘の深い紺色を受けて、青く輝いている。


「嫌な雨ですね、気分が滅入ります。」
「だが、悪い事ばかりではない。アンヌと、こうして出掛けられるのは、雨のお陰だ。並んで歩けるのもな。」


指輪を眺めたまま、シュラ様がフッと微笑む。
途端に、私の心臓がドキンと大きな音を立てて鳴った。
相変わらず、彼の笑顔の威力は物凄いものがあるわ。
何度、身体を重ねたところで、この笑顔に目が眩むのは変わらないのだから。


「後は、何処へ寄るんだったか?」
「えっと……。ボディーシャンプーを買いに雑貨店へ。それから、新しいキッチンマットが欲しいな、と。で、最後は日本食の食材が置いてあるお店ですね。」
「俺の買物もある。途中で寄っても問題ないか?」
「勿論です。」


中国奥地での任務に備えて、必要なものは揃えておかなければいけないものね。
シュラ様は、あまり時間を掛ける気はないようだけれど、相手が相手だもの、長期の任務になるかもしれない。


「まぁ、買うと言っても、下着ぐらいなのだが。」
「それだけですか? 救急道具とか、非常食とかは?」
「聖域からの配給品で十分だ。後は、デスマスクが何かしら持ってくるだろう。」


デスマスク様は準備に余念がない方ですからね。
でも、今回に限っては、恋人さんを迎えに行っていて、準備の時間を確保出来ないのではないだろうか。
多分、聖域に戻ってきたら、直ぐにでも出発になるだろうし。


「どうしても不足するものがあれば、現地の支援者を頼る。近隣の村には調査員達も何人か入っているだろう。必要なものがあれば、彼等に頼んでも良い。聖衣だけ持って、後は手ぶらで行ったところで、大した不自由はない、どの任務でもな。」
「そういうものなのですか。デスマスク様は、緊急時以外は、いつも入念に準備をされていましたから、もっと不自由なものなのかと思っていました。」
「アイツは身の回りのものにこだわり過ぎるんだ。それと、あまり他人を頼りたがらない。そのせいだろう。」


六年もの間、黄金聖闘士の宮付き女官として勤めながら、実際の任務の様子や、その間の生活など、私には知らない事が沢山あった。
それもこれも、デスマスク様は外での事を、あまり話したがらなかったからだ。
任務の首尾や現地の様子を聞こうにも、「オマエは知らなくてイイ。」と突っ跳ねられるばかりで。
だから、準備はアレコレとさせられても、実際に何が、どの場面で、どのように必要になったのかなど、まるで知らないまま。
自分が用意したものが、ちゃんと役に立ったのかさえ、分からず仕舞だった。


「その点、シュラ様は、ちゃんと私に伝えてくれます。頼りにされていると思えて、嬉しいです。」
「俺はヤツとは違う。それに、今は立場も違うだろう。女官ではなく、俺の妻なのだからな。アンヌには、何でも知っていてもらわねば困る。」


そうこう言っている間に、先日、私が立ち寄った男性下着のお店に辿り着いた。
シュラ様がボクサーパンツを物色している間、私は彼の着る新しいシャツやハーフパンツ、それにソックスを十足程、選んで購入した。





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