大きな通りから外れたそこは、人通りも少なく、静かな場所だった。
辿り着いたお店は、シュラ様が先日、私のために指輪を買ってくれたジュエリーショップ。
如何にも敷居が高い、そんな店構えの高級感漂う店舗に、私は二の足を踏んだ。


頻繁に耳にする、所謂、ハイブランドのお店とは、また違う。
それでも私にとっては十分に縁遠い存在であるのに、ココは、そのハイブランドを更に超えたお店だ。
大切なのはブランドではなく、品質、繊細な技術、一点ものの美しさ、そういった装飾品そのもののスペック。
それを最重視しているのは、見て明らか。
こんなお店が、この街にあったなんて。
というか、シュラ様、こんな凄いお店で購入したのですか、この指輪!


「グラード財団系列の店だ。世に言うところのセレブのための宝飾店だな。」
「そ、そんなお金、何処から出したのですか、シュラ様?」
「ココなら、一般の人が買うよりも安く買える。まぁ、社員割引みたいなものだ。」


社員って……。
シュラ様はグラード財団の社員ではなく、聖闘士でしょう!
しかも、黄金の聖闘士でしょう!


「アテナのボディーガードも務めているから、社員みたいなものだ。そう思わないか、アンヌ?」
「そう言われましても……。」


これ以上は反論しても意味がないと悟った私は、適当に相槌を打って、話を打ち切った。
取り敢えずは、シュラ様にとって過剰な負担になっていなければ、それで良い。
磨羯宮裏手の十二宮の階段を、教皇宮からの補助なしで修復している現在、宮費に全くの余裕がない事を思えば、幾ら大切な指輪だからといっても、大金を注ぎ込む訳にはいかないのだ。
そんな事になっては、私の心が許容出来ない。


「いらっしゃいませ。あぁ、シュラ様。先日は有難う御座いました。」
「俺の方こそ、突然、すまなかった。で、すまないついでに、もう一つ。今度は俺の指輪を頼みたいのだが……。」
「それでしたら、ご用意は出来て御座います。」
「随分と準備が良いな。」


普通に考えれば、この手の指輪は揃いで買うもの。
きっと近日中に、今度はシュラ様ご自身の指輪を求めに来店するだろうと、こちらの店長さんは踏んでいたらしい。


「あれと同じものを?」
「はい、シュラ様のサイズでご用意出来ております。後は、実際に嵌めてみて、サイズの微調整をするだけですが、如何しますか?」
「それは助かる。また後日、完成品を取りに来なければならないと思っていた。」


そうですよね、これからサイズ調整となると、普通はそれなりに時間が掛かるもの。
リングの幅を広げる加工は、そんな簡単に出来上がるものではない。
でも、シュラ様のサイズに合わせて、既に用意されているとなれば、簡単な微調整だけで受け取れる。


……ん、あれ?


という事は、私の指輪の時は、あらかじめ注文しておいたという事なのだろうか?
そうじゃないと、あの時の、あの短時間で、デザインを決めて、私に合う大きさに加工して、それを出来上がった状態で受け取るだなんて、絶対に出来ない筈。
あの日、私と別れた後に、シュラ様は下着を買いに行っていた。
その後で、ココに寄ったとなれば、それは既に出来上がっているものを受け取る、それくらいの時間しかなかっただろう。


「お前に告白した直ぐ後、頼んでおいたんだ。その内に必ず必要になる、そう思っていた。」
「凄い自信満々……。」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、何も……。」


当然、私が彼のプロポーズを受けるのだと決め付けての行動。
それを自信満々と言わずして何と言おう。
でも、それがシュラ様だ。
いつも、その強引さに引き摺られて、でも、そのお陰で、私は一歩を踏み出す事が出来た。
誰かと恋に落ちる事、誰かと愛を交わす事を怖がっていた私を、新しい世界へと導いてくれた。
それがシュラ様だった。





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