「……で、何なの?」


獅子宮のプライベートルームに入ると、ほぼ同時。
歩美さんが、私の顔を覗き込むようにして尋ねてきた。
で、でも、ココで立ち話するような内容ではないし、彼女にとっては結構な重い話になるだろう。
ここは、ランチを食べながら、ゆっくりと……。


「え? あ、えっとですね……。話の前にランチの準備を……。あの、アイオリア様はシャワーを浴びてきてください。汗だくのままじゃ、気分も良くないでしょうから。歩美さんはお皿を用意してくれますか? 私はお料理を温めてきます。」
「そう? 慌てて引っ張られてきたのに、随分と勿体ぶるのね?」
「そ、そういう訳じゃないのですが……。」


バスケットの中から取り出したのは、お料理を詰めた容器。
それをテーブルに置いた音が、ゴトリと大きく響いた。
その音が、不思議と後ろめたさのようなものを含んでいるかに聞こえて、居た堪れない気分になってくる。
別に彼女に対して悪い事をしたとか、良くない事をしようとか、そういう訳ではないのに。


「オイ。気持ちは分かるが、あまりアンヌを困らせるな。」
「あ……。」


助け船を出してくれたのは、意外にもアイオリア様だった。
普段なら、こう言っては失礼かもだけれど、返って場を悪くしてしまうような横槍を入れてしまう彼。
だけど、この時ばかりは違っていた。
歩美さんを窘める言葉と共に、ポンっと一つ、彼女の頭を撫でるように叩いたのだ。
それが余りに意外な行動だったのか、歩美さんは反論する事も出来ずに目を見開いている。
そのまま背を向けてバスルームへと歩いていくアイオリア様の後ろ姿は凛々しく、とても格好良く見えた。
きっと彼女の目には、私以上に、その姿が素敵に映っている事だろう。


「……反則。」
「え?」
「あんな風にされたら、言いたい事も、言い返せなくなっちゃうじゃない。」
「ふふっ。歩美さんは、こういうスキンシップに弱いのですね。」
「わ、私が特別に弱い訳じゃないわよ。日本人は皆、慣れてないの。というか、この辺りの人達のスキンシップが過剰過ぎ。」


言われて、シュラ様を思い浮かべる。
彼のスキンシップは確かに過剰だ。
でも、シュラ様は『この辺りの人達』に含まれるのだろうか?
この聖域に住んでいる人達は多国籍だから、どの辺りまでが該当するのか良く分からない。
でも、それにしてもシュラ様は過剰だわ。
やはりラテンの血のせい?
ラテン系というなら、デスマスク様も恋人さんに対しては、同じくらい過剰なの?


「でも、不思議よね。ギュッと思い切りハグされるより、頬っぺたにキスされるより、子供相手みたいに頭ポンポンってされる方が、嬉しいと感じるの。キュンとして、凄く照れちゃう。」
「あ、分かります。私もそうですもの。」


シュラ様もそう、濃厚な口付けを仕掛けられた時より、頭をポンッと軽く撫でられた時の方が、胸にトクンとくる。
あの大好きな小さな微笑をフッと浮かべた瞬間と同じ、キュンキュンと甘い感覚が胸の奥を擽る感じ。


「アイオリアは分かってないんだろうなぁ。こんなにも私の心に、クリティカルヒットを与えているなんて。」
「その素朴さと純粋さが、アイオリア様の魅力だと思いますけど。自覚があったなら、今頃はプレイボーイになっているかもですよ。」
「確かに。自分がモテてる事にも気付いてないしね。罪な男よね、ホント。」
「あ、それです。さっきの話なのですが……。」
「え?」


丁度、お料理も温め終わり、ドスドスと足音がして、アイオリア様もシャワーから戻ってきた。
奇しくも歩美さん自身の口から、先程の説明についての話が進み、早速、私達は食卓を囲んだ。





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