その夜。
私は両手に黒山羊さんと白山羊さんのぬいぐるみを抱いて、シュラ様の寝室に向かった。
私が買った二体のぬいぐるみ。
いつもはリビングに置いてあるそれを寝室にまで持ち込んだのは、やはり寂しかったから。
寝室には、私がこの宮に異動になる前からいる白山羊さんのぬいぐるみ(多分、女官の誰かからプレゼントされたものだろう)が一体いるけれど、それだけでは寂しさは紛れそうにない。


大体、このベッドが大き過ぎる。
たった一人で眠るために、いや、もしかしたらパートナーと眠る事を想定してのキングサイズなのかもしれないけれど、それにしたって、こうまで大きい必要はない。
やはり黄金聖闘士様は特別、これだけの優遇された生活が保障されているのだから。


シュラ様が留守にしている間、本当は自分の部屋の狭いベッドで眠るつもりでいた。
だけど、昨日の夜は、気付いたら彼の寝室に来ていた。
こんな広いベッドで、寂しい思いをしながら眠るなんて……。
そう思いつつも、ベッドの中へと潜り込めば、ホッと安心する自分がいた。
シュラ様の匂い、それと、色濃く残る彼の気配のためだろう。
毎日、シーツやカバーは取り替えてはいても、長年、染み付いた匂いというのは、そう簡単には消えない。
このベッドの中で、彼の枕を抱き締めると、直ぐ傍にシュラ様が居るような気がしてくる。
自分は無意識のうちに、それを求めていたのだろう。


それにしても薄ら寒い。
真夏だというのに、寒さを感じるなんてどうかしている。
それもこれも、常に傍に寄り添い、私を抱き締めて離さないシュラ様の大きな身体が、横に居ないから。
たったそれだけ。
それだけの事なのに、こうも違うなんて。


愛を交わすようになって僅か数日。
共に、このベッドで眠るようになってからだって、そんなに日は経っていないのに、こうも変わってしまった自分の心。
シュラ様が居ない事に、こんなにも耐えられないなんて。
これで長期の任務や、激しい戦闘を伴う任務に赴く事になったなら、私の心は大丈夫なのだろうか?
そんな事を延々と考えてしまう程に、自分で自分を信用出来なくなってきている。


「考え過ぎちゃ駄目よ。早く寝なきゃ。」


そう思いつつも、横になったまま大きな溜息を吐き出す私。
そんな自分に呆れ返りながら、手を伸ばして、シュラ様がいつも寝ている場所に置いた山羊さんのぬいぐるみ三体を、もっと顔の近くへと引き寄せた。


「ねぇ、山羊さん。シュラ様は今頃、どうしているかしら……。」


私の枕元に並ぶ、とぼけた顔の山羊さん三匹。
当然、彼等が答えてくれる筈もなく、真ん丸い目でコチラを見つめているだけ。
私は枕に頭を預けたまま、顔を逸らしてぬいぐるみを見上げ、そのとぼけた口元を一体ずつ順に、指先で突っ付いていった。
僅かな振動でもバランスを崩し、ゆらゆらする不安定な山羊さんのぬいぐるみ。
右に左に、それぞれがアンバランスに傾いて、そんな状態が何故か、とても面白く思えて。
少しだけ癒された気分で目を閉じると、私はシュラ様の枕を抱き締めて、夢の世界へと落ちていった。





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