夕食は予定より一品少な目に。
それは食後のデザートを、より楽しむために、二人で相談して決めた。
そして、食事が終わると直ぐに、シュラ様が買ってきてくれたロイヤルグラードホテルのシフォンケーキを二切れずつ、アイスミルクティーと一緒にいただいた。


「これ、ふわっふわで美味しいです。」
「あぁ、評判通りだな。」


これがケーキかと思う程の柔らかさ、ふわふわの生地。
滑らかな舌触りと、香ばしい焼き上がりの匂い、上品な甘さ。
口に含んだ瞬間、幸せな気分になる。
まさに、そんなケーキだった。


「プレーンはどうだ?」
「はい、ふんわりと甘くて美味しいです。」
「俺にも一口……。」


そう言って、シュラ様が口を開けたまま私の方へと顔を寄せる。
そ、それは、まさか……。
まさか、私のフォークで掬ったケーキを、シュラ様の口に『あーん』しろと、そういう事ですかっ?!


「どうした? 早くしろ。」
「え? あ、は、はい……。」


シュラ様に急かされ、慌ててケーキを掬うと、その口の中へと、そっと押し込む。
な、何というか、物凄く恥ずかしいのですけれど。
誰が見ているという訳でもないのに、とんでもなく気恥ずかしい。


「うん、美味いな。やはりプレーンは余計な味やクセがなくて良い。」
「は、はぁ……。」
「アンヌ、顔が真っ赤だ。どうかしたのか?」
「い、いえ、何でもないです……。」


私が真っ赤になっているというのなら、その全ての責任はシュラ様にあるのですけどね!
でも、特に意識してやっている風には見えない。
全く、無意識でこういう事をしてくるなんて、この人は本当に何処まで天然なんだか……。


「紅茶味も美味いぞ。口に入れると、アールグレイの良い香りが鼻からフッと抜けていく、それが絶妙だ。」


シュラ様は紅茶好きだ。
見た目にはコーヒーを、しかも、お砂糖を入れないブラックコーヒーを好みそうに思えるけれど、実際のところ、彼は全くコーヒーを飲まない。
その代わり、紅茶にはこだわりがあるようで、色々な種類の紅茶を、時と場合によって飲み分けている。
食後の一杯は、ウバかディンブラ、それをストレートで。
お茶の時間は、合わせるお菓子にもよるけれど、大抵はダージリンを。
その中でも一番好きなのは、お砂糖とミルクをふんだんに使ったロイヤルミルクティーだ。
人は見掛けによらないと言うけれど、シュラ様がまさにそれ。


「ほら、食ってみろ。美味いぞ。」
「えっ?!」


紅茶味のシフォンケーキを掬ったフォークを、何の躊躇いもなくスッとこちらへ差し出すシュラ様。
こ、今度はそっちですか?!
わ、私がシュラ様に『あーん』してもらう方ですか?!


「落ちるぞ、アンヌ。早くしろ。」
「あ、は、はい。」


覚悟を決めて口を開くと、そこに押し込まれるケーキとシュラ様のフォーク。
無意識にシュラ様の事をジッと見つめながら、ケーキを口に含んだ。
その瞬間、彼の口元にフッと浮かぶ、いつものあの笑み。
刹那、心臓がドキンと大きな音を立てて高鳴り、私は慌てて目を逸らして、ケーキを飲み込んだ。
正直、紅茶の味も香りも全く分からないくらい、大きな恥ずかしさと照れ臭さが、私の心を支配した。



→第3話に続く


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