「ね、これ。この洋服。今、試着してみたいんだけど、良い?」
「あ、はい。じゃあ、私の部屋で。」


ヨロヨロと立ち上がろうとした歩美さんに、すかさず立ち上がったアイオリア様が手を貸した。
こういうところは、とても紳士な人だ。
当たり前のように彼女を支えて、歩き易い広い場所まで誘導している姿を見ると、とてもこの二人が、いがみ合っているようには見えない。
なのに、口を吐いて出る言葉は嫌味ばかりなのだから、聞いているこちらが呆れてしまう。


「何もココで着てみなくても良いだろうに。アンヌに迷惑を掛けてばかりだ。」
「女心に疎いアイオリアには分からないのよ。良いわよ、着替えた後の姿、見せて上げないんだから。」
「お、俺は別に見たいなどとは一言も……。」


また、言い負かされているわ。
実際の戦闘ともなれば誰にも負けないアイオリア様も、女の子には、取り分け口での言い合いでは全く頭が上がらないのだから、不思議なものだ。
きっとそれだけ彼の心が優しいのだという事だろう。
自分よりも弱い者、子供や老人、女性、怪我人、彼が守るべき人々に対しては、より一層。
多分、歩美さんも、それを分かっている。
分かっているからこそ、アイオリア様の事が好きなのだと思う。


「さ、あちらへ。私の部屋は奥になりますが……。」
「大丈夫か? 歩けるか?」
「ん、平気。」


アイオリア様の支えから抜け出し、私の身体に掴まる彼女を庇うように奥の部屋へと向かう。
シュラ様と共寝するようになってからは、着替えとお化粧くらいにしか使わなくなった部屋は、元々、従者用の小さな部屋。
でも、その狭さが逆に良かったようだ。
支えが必要な歩美さんには、寄り掛かれる壁が近い方が安心出来たらしい。


「……で、それ。昨日、買ってもらったの?」
「え?」


部屋に入るなり、突然、切り出した歩美さんの言葉に、私は首を傾げた。
何の事を言われたのか分からなかったのだ。
だが、ベッドに座った彼女の目線と、人差し指が指し示す方向で、ハッと気付く。
やはり女性は鋭い。
こういう事は絶対に見逃さないもの。


「その指輪、貴女の恋人さんに買ってもらったのでしょう? シュラさん、でしたっけ?」
「い、いつの間に気が付いたのですか?」
「直ぐに気付くわよ、それだけ光っていれば。まぁ、アイオリアは全く気付いてなかったみたいだけれど。男の人って鈍いわよね。アイオリアみたいな無骨な人は、特に。」
「デスマスク様は目聡く気付きましたけどね。」
「デスマスクさんって、あの人? 獅子宮の隣の宮の人。頻繁に様子見に来てくれるけれど、彼は確かに鋭そうね。しかも、口煩そう。」
「大当たりです。」


デスマスク様くらいに口煩い聖闘士は絶対にいないと思います。
私がそう続けると、彼女は「あ、やっぱり。」と言って、おかしそうにクスクスと笑った。





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